表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/61

第三話『陰の名前 上』其ノ弐

_____


 学園内高等部工業科____






 

 祓具、創りに行こうか_____、という弥子君の言葉で体育科のトレーニング施設を後にした僕達は、午後から予定があるという悠太君と別れ、狼君と弥子君の3人で、祓具を創りに行く為工業科の校舎へと足を運んでいた。


 「それで、なんで工業科なの?」


 普通科とは違った見慣れない校舎内にキョロキョロと挙動不審になる僕を横目に、慣れた様子で歩みを進める2人に尋ねた。


 「工業科はものづくりに強い異能力や技術を持った生徒ばかりって言ったでしょ」

 「あ…」


 弥子君にそう言われてつい先程の会話を思い出した。


 「え、それじゃあ祓具は工業科の生徒が作ってるって事!?」

 「正解」



 驚きが隠せない僕に弥子君は口角を上げて笑った。「まあ正しくはその大半を、だけどね」なんて言っているが、その大半を僕と同じ生徒が作ってるだなんて凄すぎる。


 「そんな工業科の中でもトップクラスの能力を持った後輩がいてね、折角だから回道の祓具はその子に頼もうと思ってさ」

 「そんな凄い人に……」


 大丈夫かな、と心配する僕とは対照的に弥子君はどこか楽しそうだ。不安気な僕を見兼ねてか、狼君は顔を覗き込むようにして僕を見た。


 「んな顔すんなよ、お前も同じ能力者だろ」

 「う、うん……」


 「それは確かにそうなんだけど…」と、僕はやはり自信が持てなくて尻すぼみになる。狼君や弥子君の能力は勿論のこと、此処、工業科の校舎内は見た事も無い物や武器で溢れかえっている。これら全てを僕と同じ生徒が創っただなんて、同じ能力者である僕とは天と地程の差がある。だから自然と眉が下がってしまうのは仕方が無いと思う。


 「………あ、ところで妖って一体どうやって祓うものなの?」


 僕より数歩先を歩く2人に聞く。そんな問いに2人は歩みを止める事なく、顔だけを僕の方に向ける。


 「目を潰すんだよ」

 「目……?」


 そう言った弥子君に、確かに僕が見た妖にもギョロギョロと不気味な目があったけど……と思い出す。そんな僕の思考を読み取ったかのように、狼君はその細長い人差し指で自分の目を指差した。

 

 「目っつってもこれの事じゃねぇよ?妖の目っつーのは、妖の核の部分な」


 そう言って今度は親指を自分の心臓に突き立てて見せた。妖の核……、それが一体何処なのかいまいち想像が出来ない。


 「まあ、人間で言うと心臓みてぇなもんだな、その目を潰す……要は破壊する事で妖は祓える」

 「その、目って言うのは一体何処に…?」

 「目の位置は妖によってバラバラだから、自分で探し出して潰すしかないんだよね」

 「探すって、何か特徴みたいなものがあるの…?」


 そう聞くと弥子君は顎に手を当てて「うーん、」と考える素振りを見せる。

 

 「…いや、なんて言えばいいのかな……、目は妖の核……つまり存在源である負の感情そのもの。

 それは繊細で1番柔らかい部分、要は弱点なんだよ」

 「弱点……」

 「俺達も自分の弱点や触られたくない部分、隠したい部分は誰にも気付かれないように隠したりするでしょ?どんな生き物だって、自分の弱点になる部分は本能的に隠したがるものだからね。でもそれは、勿論妖も同じで目を隠そうとするんだ。だから分かると思うよ。

 まあ、今こうやって話聞いてるだけじゃいまいち伝わらないと思うけどさ、妖を祓う事になれば回道にも絶対分かるから安心しなよ」


 目を細めて優しく笑う弥子君の言う通り、いまいち伝わらないけど、2人がそう言うのであればそうなのだろう。

 _____でも、妖も異能力も分からない事だらけで、何も知らない、出来ない僕は本当に大丈夫なんだろうか。


 「だから、んな顔すんなって」


 そんな声と共に狼君は僕の頭にポンと手を乗せた。そしてそのままぐりぐりと僕の頭を揺らしながら言う。


 「お前はやった事ねぇんだから、出来なくて分かんねぇのが当たり前だろ。だから俺等がいんだよ」


 至極当たり前の事を、僕は言われるまで気付かなかった。だから竜胆先生もああ言ったのだ、一緒に成長してくれる友達を作りなさい____と。


 「それは、……友達ってこと?」

 「おう」


 そう言った僕に少し面食らった様な顔をした後、狼君は優しく目を細めた。僕はこの感情がやっぱりまだ慣れなくて、むず痒くて、勝手に熱を持つ頬が少し恥ずかしくて、緩くなる口角をきゅっと引き締めた。


 「着いたよ」


 そうこうしている僕の耳に弥子君の声が届く。2人が足を止めた先には「第7研究室」と書かれた部屋が見えた。





 そして___


 「あれ、奥墨(おくずみ)さん」

 「おう、高専寺と狐塚じゃねェか」


 「相変わらず仲良しだな」と、特徴的な江戸っ子口調で話す彼を、弥子君は「奥墨(おくずみ)さん」と呼んだ。狼君と弥子君は彼と知り合いの様で、何やら親し気な様子だった。2人の後ろからそっと覗きながら僕は奥墨さんを見る。


 第一印象は黒だった。真っ黒の和服に身を包み、赤い番傘を手に持った彼は高校生には見えない。僕より歳上なのだろう大人の落ち着きを感じる。墨汁の様な真っ黒い髪の毛は背中まで綺麗に伸ばされ、彼の頭上で一つに結われている。じっと観察していると、そんな僕の視線に気付いたのかバチリと目が合う。


 「見ねェ顔だな」

 「あ、……僕、先月編入したばかりで……、回道 廻です」


 名前を伝えて軽く自己紹介をしようとすると、「あァ、お前が…」と、彼は珍しい物でも見るかの様に僕を見た。 


 「不死身の回道 廻だろ?凄ェ能力のヤツが編入してきたって噂になってらァ。学園でお前の事知らねェヤツなんざ、いねェと思うぜ」

 「ええ!?」


 「そうなの!?」と驚いて狼君と弥子君を見ると、2人は当たり前だとでも言う様に大きく頷いた。


 「不死身なんて異能力持ってるんだから、そりゃ目立つに決まってるでしょ」

 「死なねぇなんてチートだからな」


 「しかも普通科」なんて言って狼君はケラケラ笑っている。いや、僕自身は何も凄くなんてないのに全然笑い事じゃ無いよ……。「うう…」と頭を抱えていると、ふらっと奥墨さんが僕の前に立った。


 「俺ァ奥墨 玄雲(おくずみ げんうん)、大学棟の医学部1年。よろしくな」

 「あ……、僕、高等部普通科3年です。よろしくお願いします」


 「おう、知ってらァ」と口角を上げて奥墨さんは笑う。僕より遥かに身長が高い奥墨さんが前に立つと、僕の体は簡単に彼の影に覆われてしまった。


 「奥墨さんも鐘鋳(かねい)に用ですか?」

 「あァ、ちょっとな」


 そう言って怪し気に笑った奥墨さんは手に持った番傘で肩をトントンと軽く叩いた。新たに出た名前に首を傾げていると、奥墨さんはその第7研究室の扉をノックもせずに何の躊躇も無く開けた。







 「創一郎(そういちろう)、いるかィ」








 一言で表すのなら、そこは武器庫みたいだった。ずらりと綺麗に壁に飾られたものや、物入れにきちんと整頓された武器が山のようにあった。



 そんな研究室の奥から、奥墨さんの呼び掛けで背を向けて作業をしていたであろう人物が振り返った。


 「……奥墨さん、アンタいい加減にして下さいよ。何回壊せば気が済むんですか」


 創一郎と呼ばれた彼は奥墨さんを視界に映した途端、眉間に皺を寄せ不機嫌を隠さない表情になった。麹色のサラサラなマッシュヘアが特徴的な彼は、少し中性的な顔立ちをしていて、やや釣り気味な瞳で此方を睨みつけていた。……いや、正確には奥墨さんを睨み付けていた。そんな彼に奥墨さんは少しも動じる事なく、ヘラヘラと笑いながら話を続けた。


 「いや今日は壊しちゃいねェ、ちと創一郎に頼みがあってな」

 「頼み……?」


 「どうせまた碌でもないことでしょう」と、相変わらず不機嫌な顔で彼は答えた。すると、彼は奥墨さんの背後にいた僕達の存在にやっと気付いたのか、彼の視線がチラリと僕達を捉えた。

 ……いや、正しくは僕達といる弥子君の姿を。


 「鐘鋳、久しぶり〜」

 「!

 狐塚さん…!お久しぶりです!!」


 ひょこっと奥墨さんの背後から顔を出して、ひらひらと彼に手を振る弥子君の姿に、彼は人が変わったかの様にキラキラと瞳を輝かせて立ち上がった。


 「わざわざ来てもらわなくても、俺が狐塚さんのとこまで行ったのに……」

 「……その差は酷くねェか?」

 「俺は奥墨サン好きですよー」

 「……そうかィ」


 そんな彼の変わり様にややショックを受けた様な顔をした奥墨さんに、狼君は欠伸をしながらそう言った。全く彼等の関係性が見えてこない僕はただ黙ってその様子を見ているしかなかった。


 「今日はどうしたんですか?」

 「いや、俺も奥墨さんと同じで鐘鋳に頼みたい事があってさ」

 「頼み、ですか?」


 「狐塚さんが俺に頼み……」、彼はそう言ってどこか嬉しそうに呟いた。そんな彼を見て弥子君は優しく目尻を下げた。そして狼君と奥墨さんの後ろに隠れる様にいた僕の腕をグッと引っ張って、


 「この子の祓具をね、創って欲しいんだ」


 そう言って彼の目の前に僕は連れて来られた。弥子君にそう言われて初めて僕の存在を認識したであろう彼は、奥墨さんの時と同じく、いやその時以上に眉間に皺を寄せ一瞬で不機嫌な顔になった。


 「……誰ですかこの人」


 「狐塚さんの知り合い……?」と、グサグサと突き刺すような視線を僕に浴びせながら彼は冷たく言い放った。たらりと冷や汗を流す僕に弥子君は「ほら、自己紹介」と僕に促した。

 ……いや、この状況でするの?僕めっちゃ睨まれてるんだけど。


 「は、初めまして。回道 廻です……、えぇっと、その、高等部の普通科3年に編入してきました」

 「……回道 廻…?」


 何か考える様に僕の名前を復唱した彼は、一拍置いて「…ああ、」と、何か思い出したかの様に声を上げた。


 「アンタあれか、不死身の編入生」

 「……あぁ、はい、たぶんそうです」


 奥墨さんが言っていた様にどうやら僕は本当に噂になっているらしい。彼の僕に対する視線がほんの少しだけマシになった様な気がする。

 僕の正体が彼に伝わったところで、弥子君は僕に言う。


 「回道、この子は鐘鋳 創一郎(かねい そういちろう)。此処、高等部工業科の2年生。鐘鋳は学園から必要とされる祓具のほぼ全てを創ってる、鐘鋳の異能力の右に出る人はいないよ」


 そう言って弥子君は鐘鋳君の肩に手を乗せた。弥子君にそう紹介された鐘鋳君は照れ臭そうに「いえ、そんな事は……」と視線を逸らした。


 「それで改めてなんだけど、回道の祓具を創ってくれないかな」

 「………………、それは、……勿論」


 いや、めちゃくちゃ不服そうじゃないか。


 クールな印象の鐘鋳君は意外と顔に出るタイプなのか、何を考えているのかがとても分かり易い。


 「ありがとう、助かるよ」


 すると弥子君はくるりと奥墨さんに向き直ると、すっかり蚊帳の外になっていた彼に問い掛ける。


 「奥墨さん、先に用事終わらせますか?」

 「いや、俺ァ後で構わねェよ。先に終わらせちまいな」

 「……ああ、そういえば奥墨さんも頼み事でしたっけ」

 「お前相変わらず良い性格してんのな」

 「あ、高専寺さん。お久しぶりです」

 「お前のそーゆーとこ、結構好きだワ」


 奥墨さんの頼みとやらをさらりとかわし、狼君の存在をたった今認識したかの様な発言をした鐘鋳君は、相当肝が据わっていて、僕より1つ歳下だなんて到底思えない。

 ていうか、彼は弥子君しか見えていなんじゃ……?なんて考えながら彼等の会話を見守っていると、くるりと此方を振り向いた鐘鋳君は僕に呼びかけた。


 「じゃ、さっさと終わらせるんで……こっち来てください」

 「あ、うん」


 言われるがまま僕は鐘鋳君と向かい合わせになる様に立つ。こうして改めて正面から彼の顔をまじまじと見つめると、釣り気味でやや丸みのある目と少し中性的な顔立ちのせいでなんだか幼く見えた。

 そんな事を考えながらどうやって祓具を創るのだろうと思っていると、正面に立つ鐘鋳君は徐に僕の方へと腕を伸ばした。








 そして____


 「ぶっ」


 ガッと勢い良く僕の顔を右手で掴み上げた。

 






 _____いや、なんで!?


 

 「いたっ!?、いだだだだだだっっ」


 

 華奢な体に似合わず頭蓋骨を割るかのような握力で僕の顔を掴む。その力の強さに僕はただただ叫ぶしかなかった。


 「えっ何!?ちょ、痛い!!鐘鋳君っなにこれ!?」

 「ちょっと静かにしてて下さい」

 「いや痛いんだけど!?鐘鋳君!!!!」

 「黙って想像して下さい」

 「何を!!!?」


 騒ぎ立てる僕に鐘鋳君は心底嫌そうな顔をする。いや、そんな顔されても死ぬほど痛いんだけど!!抗議しまくる僕に、ついに鐘鋳君は無視を決め込む。これは駄目だ……と、助けを求めようと指の隙間から狼君達を見るも僕の暴れようにゲラゲラと笑っている。


 痛みに薄らと涙が滲み始めた時、無視を決め込んでいた鐘鋳君が漸く口を開いた。


 「出来ました」


 そう言って、僕の顔を掴んだ右手はそのままに、反対の左の手の平を床に向けるようにして手をかざした。

 

 すると_____
















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ