79話 ファンイベントの打ち合わせ
祐樹がゲーム制作セミナーに参加していた日、星も来週のファンイベントの打ち合わせのためにさやかの運転で秋葉原に向かっていた。
「星ちゃん、もう少しで着くよ!」
「あっ!寝ちゃってました。ごめんなさい。」
「大丈夫だよ。昨日までテストだったんでしょう?そりゃあ疲れてるよ。」
「テスト明けの休みなのにごめんね。」
「大丈夫ですよ。仕事なので!」
「でも来週楽しみだなぁ」
「そうだよねぇ、デビューして初めてファンの前で歌うんだからね」
「秋にも全国3か所のライブが控えてるからそれも楽しみだね」
「はい!テレビでは結構歌うことが増えたけど、本格的なライブとかは初めてだから、とても楽しみ」
「えっとこの先だと思うんだけど・・・左かな?」
車がウインカーを出して左折した。
「そうだ、打ち合わせは13時半からだから、どこか近くで食事してから入りましょう!」
「そうですね」
「どこか近くの停められる駐車場探すね」
「丁度信号で止まった。」
さやかがナビの設定で駐車場を確認していた。
星は窓の外を眺めていると、大きな窓の向こうに懐かしい顔が目に入った。
それはずっと心の中にあった好きな人の顔
「えっ!祐樹?」星が小声で叫んだ。
星は窓の外を目で追った。
「間違いない。祐樹だ!」
星の心臓が音を立てて早くなった。
「祐樹が秋葉原に来てる?なんで?」
星はその顔、その姿をじっと見ていた。
その時信号が変わった。
「この先に一時預かりの駐車場があるからそこに停めるね。」
さやかが車を発進させた。
星は車が動き出してもそれを目で追った。
その時、さっきは死角で見えなかったが、向かいの席に女の人が見えた。
それも凄くきれいな女の人だった。
「えっ!誰?」
「もしかして新しい彼女?」
星の顔から血の気が引いた。
車が右折したため、その窓が見えなくなった。
星は見えなくなってもずっと後ろを向いていた。
さやかがそれに気づき「星ちゃん、どうしたの?」
星の返事がない。
「星ちゃん!」
まだ返事がない。
さやかが少し大きな声で、「星ちゃん!」と叫んだ。
星ははっと振り向き「あっ!ごめんなさい。」しか言えなかった。
さやかが改めて尋ねる。
「星ちゃん、どうしたの?」
「なんでもありません。大丈夫です。」
でもその顔は真っ青になっていた。
駐車場に車を停めて、さやかが振り返った。
「体調悪そうだけど・・・。もしかして車に酔った?」
「本当に大丈夫です。」
「あっ!さやかさんちょっと歩いて戻って良いですか?ちゃんと帽子とマスクするから」
「良いけどどうしたの?」
「直ぐに帰ってきます。」
そう言うと星は今来た道を戻り左に曲がった。
気持ちの高ぶり、どきどき感を抑えながら先ほどの喫茶店の窓に近付いた。
でもそこには誰もいなかった。
「えっ!いない・・・。」
星は周りも見渡しても祐樹の姿はなかった。
心配したさやかがやって来て「本当にどうしたの?」
「ごめんなさい。もう大丈夫です。」
「12時45分回ってるから、食事にしましょう?」
「あっ!はい」
2人は駐車場近くのイタリアンの店に入った。
食事をしながらもさやかの問いかけに星は「何にもありません。大丈夫です。」とだけ返した。
食事を終えた2人は歩いてウイングプラザに向かった。
着くとロビー奥の受付に向かった。
「HIKARIのマネージャーの新道です。」
「あっ!お待ちしておりました。こちらへどうぞ!」
受付にいた女の人が、2人を応接室に案内した。
「少々お待ちください。」
「ありがとうございます。」
応接室の椅子に座ってしばらくすると数名の男の人と女の人が入って来た。
「こんにちは、ウイングプラザ館長の木村です。」
「この度はお世話になります。HIKARIのマネージャーの新道です。」
「HIKARIです。」
さやかが名刺を差し出した。
「当日、イベント全体を指揮します霧島です。」
「霧島さん、よろしくお願いします。」
さやかと霧島が名刺交換をした。
星も「よろしくお願いします。」と頭を下げた。
その後、さやかと星はその他のスタッフにも挨拶を行った。
木村が「お座りください。」
「失礼します。」
2人は椅子に座った。
「今回はHIKARIさんの初イベントの会場に、ウイングプラザを選定頂き大変ありがとうございます。」
「HIKARIさんの人気は本当にすばらしく、うちのスタッフにもファンが大勢います。」
「ありがとうございます。大変光栄です。」
「じゃあ霧島さん、始めましょうか?」
「では、打ち合わせを始めさせて頂きます。」と霧島が応接室にある大型モニターの前に立った。
その後、イベントの打ち合わせが始まり、途中会場となるホールと控室、リハーサルのためのセカンドホールを見て回った。
打ち合わせは3時間ほどで終了した。
「では当日よろしくお願いします。」
「朝9時前には伺うようにすます。」
「承知しました。」
「では失礼します。」
2人は応接室を出た。
スタッフの数名と館長が、ロビーの入り口まで見送りに来ていた。
「では失礼します。」
スタッフ、館長が深く頭を下げている中、さやかと星はウイングプラザの自動ドアをくぐった。
「今日はこれだけだから帰りましょう!」
「はい」
「でも星ちゃん、本当に大丈夫?打ち合わせ中も話を聞いてない時があったし、いつもの星ちゃんじゃなかったよ」
「すみません。相手に失礼でしたね。」
「それは大丈夫と思うだけど・・・。」
「帰りの車で話しますね。」
駐車場に着き、車に乗り込むと自宅に着くまで今日の出来事をさやかに相談し、さやかも理由を聞いて星の心境を理解した。
自宅に着くと
「星ちゃん、本当に大丈夫?」
「さやかさん、ありがとうございます。話せて元気をもらいました。」
「じゃあまた明日連絡するね」
「送って頂いてありがとうございました。」
さやかは車を発進させた。
その車を星はじっと眺めていた。見えなくなるまで・・・。




