71話 著作権
6月の後半、梅雨が始まりジメジメした雨の日の午後、星とマネージャのさやか、社長秘書の美香が事務所の会議室に集まっていた。
社長から話があるとのことで、急遽みんなが会議室に集合したのであった。
「ちょうど約束の時間ね。みんな急に集まってもらってごめんなさいね」
「もうすぐ社長も来るからちょっと待ってて」
「美香さん、今日は何の話しなんですか?」とさやかが尋ねる。
「じゃあ社長が来る前にちょっと説明するね。6月の初めにラジオの生放送があったでしょう?その時の質問に星ちゃんのYouTubeの曲のダウンロードの話があったの覚えてる?」
「はい、覚えています。」と星が答えた。
「その質問に対して、その時は星ちゃんからダウンロードしても良いって回答したんだけど、事務所の専属の弁護士からそれはまずいんじゃない?って話がきたの」
「曲はCDで販売しているのに一方ではYouTubeのダウンロードはOKと言うのは著作権に関わるって!」
「私が言った事がまずかったですか?」
「そのことは星ちゃんがデビューした時にみんなで同意していたことだから今までのは仕方ないんだけど、これからはやめた方が良いって思うの」
「そうなんですね」
「それなら私がYouTubeを更新して、著作権でダウンロードが出来なくなりましたって、みんなに説明しますね」
「そして、ダウンロードも出来ない様に規制を掛けますね。」
「星ちゃん、ありがとう」
「でもそれだけじゃなくて」
その時、社長の岩永が会議室に入ってきた。
「みんな集まってくれてたんだね。遅くなってすみませんでした。」
「いえ、大丈夫です。」
「えーっと!」
「私からダウンロードの件はみんなにお話しました。星ちゃんがYouTubeを更新して対応するって!」
「そっか、星ちゃんありがとうね」
「で、どうだったんですか?」
みんなが社長を見る。
「ダウンロードの件は今ので良いんだけど、あの件以来ちょっと関係者に調べてもらって、既にダウンロードして自分のアカウントなどで使用している人が数人いるって分かったんだよ」
「それは凄くまずくって、著作権に完全に引っ掛かると弁護士の先生が・・・。」
「で数個のアカウントの持ち主には連絡して納得して対応してもらったんだけど、1つのアカウントの方が連絡取れなくて・・・」
「そうなんですね」
「で、そのアカウントの人が普通の人じゃなくて・・・」
「普通の人じゃないって、もしかしてあちら系の人とか?」
「そうじゃなくて、実はみんな知ってるかな?有名なカリスマゲーマーのユピネスって人」
星は「あっ」て思い出した。
さやかが話す。
「知ってます。とても有名な方で、アカウント登録者数500万人超えてる人ですよ!」
「500百万人?そんなに!」
「そうなんです。ゲームの神様って呼ばれてる人で毎回配信時には5万人ほどの視聴者が観に来るとか・・・」
「新しいゲームを配信中に短時間でクリアーしていて、みんなから凄いとリスペクトされている人です。」
「いわゆる、その業界では凄く大物って感じの人ですね。」
「そんな人がHIKARIの曲をなんで?」
星が話し始めた。
「すみません。」
みんなが一斉に星を見る。
「どうしたの星ちゃん?」
「ユピネスって人、私知っています。」
「有名な方だからね」
「そうじゃなくて、何度かメールでやり取りした方です。」
「えっ!そうなの?」
「みなさんには言っていませんでしたが、私の曲が一気に有名になった発端がユピネスさんが私の曲をオープニング曲に選定して頂いたからなんです。」
「実はユピネスさんも私の最初の秋葉原のライブを観て頂いていた方なんです。それでYouTubeで私のアカウントを見つけてダウンロードしたと言っていました。」
「えっ!ユピネスがあの会場にいたんだぁ」
「はい、どの様な方かはわかりませんが、間違いなく居たって言っていました。」
「その後、YouTubeの登録者数が一気に膨れ上がったのがきっかけで、ユピネスさんからメールを頂きました。」
「自分の曲をゲーム配信のオープニング曲に使用しています。って!」
「その時私は、まだデビューしていなかったのでそのまま使用してもらっても構いませんって回答しました。」
「そんなことがあったんだね」
「確かにカリスマ配信者が曲を使用すれば一気に広がるね。」
「そんな事情があったんだね」
「そう!さっき、ユピネスとメールした?って言ってたけどメールアドレス覚えてる?」
「古い携帯に入っているので、自宅に戻ればわかります。」
「社長、どうします?」
「著作権の件で使用を止めてもらうことは出来るかも知れませんが、星ちゃんの人気の発端がユピネスならそれなりのお礼などもしないといけないかも?」
「それに自分が有名にしたとか言ってきて、もし揉めてしまったら向こうも黙っていないかも知れませんね。」
「何分カリスマ的な人だからその影響力は計り知れないと思います。」
「ユピネスさんはメールのやり取りではそんな方ではないと私は思いますが・・・」と星が弁明した。
岩永社長がうつむいたまま何かを考えていた。
「社長!」
「ひとつ提案があるんだけど、そのユピネスさんとわが事務所が契約してはどうでしょうか?」
「星ちゃんの曲を使用してもらって、もっともっと広めてもらうって感じで」
「もちろん無償とは無理かもしれませんが、こっちにも願ってもみない契約になるかもしれませんよ」
「お互いウインウインの条件で契約して、ユピネスさんも得するし、こちらも得する条件を探すってことで如何ですか?」
「ユピネスさん側がなんて言うかですがね。」
「一度星ちゃんのメールでコンタクトをとってみましょうか?」
「そうだね。一度話してみるのも良いかも知れない。」
「じゃあ星ちゃん帰ってメールアドレスわかるか確認してもらえる?」
「わかりました。」
「その代わりお願いがあるんですが?」
「何?」
「初めのメールの一報は私から入れても良いですか?」
「多分私以外の人が送っても返信しない可能性があるので・・・」
「わかった、じゃあ明日の夜もう一度集まりましょう!」
「わかりました」
「じゃあ私は先に帰って携帯を確認してみます。」
「じゃあ、星ちゃん気を付けてね!」
「はい、ありがとうございます。お先に失礼します。」
星が事務所から出て行った。
「それにしてもカリスマゲーム配信者と星ちゃんが繋がっていたとは・・・。」
「星ちゃんはラッキーなのかも知れないね。社長!」
「社長?どうしたんですか?」
「くっそー、あのユピネスが秋葉原のライブの場所に居たなんて!探し出してサインもらうんだったぁ~!」
「しゃちょう!」
「くっそー!」
「だめだこりゃ」




