岩下 さくら編 アークと魔法の本 その19
<異世界(関口 勝)サイド>
さて、そろそろか。情報を制することは世界を制する。現代日本で散々学んだことを異世界で実践するだけで優位の立てるのだ。
騎士団や傭兵団が出払ってしまうため、王都ベスベスタの守護に当てられていた、局地戦専用の傭兵団・セブンソードと、貴族街、商人街、観光街などの富裕層が暮らす家などに押し入った盗賊たちが、戦いを繰り広げていた。
俺は俺について来た連中を始末するために、セブンソードに狩らせる作戦を練っていたのだ。俺はもう一度やり直したいのだ。盗賊でなく冒険者として…。だから俺を知る奴等は邪魔でしか無い。
俺は最も盗賊が襲う意味がない貧民街にいる。セブンソードの奴等もここには居まい。俺は貧民街に紛れ込み熱りが冷めた頃、王都ベスベスタを脱出するつもりだ。
「大盗賊団、首領セキグチか?」
日本で言えば侍風情の大男が行く手を遮る。
「セキグチ? 知らんな…と言いたいが、見逃してくるわけもないか…」
「まぁ、慌てるな。俺はセブンソードの一角を担うアラシマという者だ。結論から言うと、お前をスカウトしに来た」
「スカウト? 何が目に留まったか知らんが、お前らほど剣技は得意ではないのだが?」
「わかっているのだろう? 実力も調査済みだ。組織をまとめ上げる支配力、育てた組織をあさりと捨てる判断力、そして自分の目的のためならば仲間も踏み台にする実行力。まぁ、最後のは…勘弁して欲しいがな」
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<異世界(岩下 さくら)サイド>
アークは”千里眼 + 空間:透視”にて、盗賊ともう一人の人物のやり取りを見ていた。その男はセブンソードのアラシマ。父親であるマーズ・レディーンのお抱えの傭兵団の一員だ。まだレディーン家の一員であった頃、よくお土産をもらっていたため、今でもしっかりと覚えている。
今出ていけば…どうなるのだろうか? アラシマにとって、自分はレディーン家の者ではないと認識して殺害されるのであろうか? いや…今出ていけば、盗賊団に強い怨みを持つルーカスさんも出てきてしまうだろう。駄目だ…。見なかったことにするべきなのか…。わからない…。どうすれば?
ならば後日、父親に問いただすか? それも無理だろう。それが可能ならば、魔法のランプを手に入れたとき、俺は堂々とレディーン家に戻ろうと思えたはずだ。もう…レディーン家とは、関係のない人間なのだ。
「おい、アーク。大丈夫か?」
「はい。少し魔法を使い過ぎたみたいです。街の様子は…傭兵団が盗賊狩りを始めたようですね」
「傭兵団が? だが…これで助かる見込みが出てきたな」
ルーカスさんは、ずっと握りしめていたクロスボウから手を放すと、天井を見上げ大きく深呼吸をした。唯一の成人男性として、ずっと緊張していたのだろう…。
アークがもう一度、外に視線を戻したときには、盗賊もアラシマも姿は見えなかった。
このアークの葛藤に、さくらこと魔法の本は、何も言えないでいた。ことがあまりにも大きすぎるのだ。盲目の息子を平然として捨て去る父親ならば、最悪アークの命も簡単に切り捨てるのだろう。




