その6 マリア、大天使と会話する
翔子姉さんが、泣いていた。
「マリア、一人で、病棟の外庭で何してたの?」
マリアは、正直に、黒いトリと戦ったとは、言えなかった。
しかし、一部始終を、女性棟の看護師に見られていたらしい。
遠くから。
「元気なのは、良いことですが。幻覚が見えていたのなら、精神病のお薬を、精神科医の先生から、処方していただきましょう」
看護師は、泣く翔子姉さんと無言のマリアに、病棟の大広間に、精神科医の先生が来てくれると言う。
翔子姉さんは、マリアに入院用の着替えや、歯みがきセットなどの荷物を届けに来てくれていた。
そう、入院とは、精神病院の病棟に連泊すること。
マリアは、荷物を受け取り、入院を意識した。
もちろん、入院など、初体験。
自宅以外に泊まるのも、家族旅行や修学旅行以外に、初体験なのである。
「大変でございますね。遠藤マリア」
金髪の長いロングヘアの美女が、真摯な眼差しで、マリアを見つめていた。
「あんた、誰よ?」
「大天使ミカエルでございます」
その6 マリア、大天使と会話する
精神科医の診断を受けたマリア。
正直に、二人目の天使が見えるようになったと言うと、医師は、精神に効くお薬を処方してくれた。
朝・昼・晩の食後用の錠剤だった。
今は、もう夕方近く。
薬は、病棟の夕食後ということだ。
「薬を飲めば、天使も見えなくなって、いつもの暮らしに戻るのよね…」
「遠藤マリアの、天使が見える精神病は、不治の病でございます。人間の薬では治らないのでございます」
まつ毛の長いミカエル様は、美しい声をしている。
「な、治らないの?精神病って!」
マリアは、大部屋の窓際のベッドから、起き上がった。
荷物を整理して、病院のかたいベッドで横になっていたのだ。
「そうでございます。ワタクシの愛する少年、永井クリスも、幼少より天使が見える精神障害者となり、ごく普通の暮らしができないのでございます」
ミカエル様は、窓の外の夕焼けを見つめる。
その心の中には、愛する人間の少年・クリスがいる。
「…あんた、何、言ってるの?」
マリアに、ミカエル様の憂いは、測れない。
今までの情報量で、理解するのもおかしくはある。
「遠藤マリア。ミカエル様は、大天使の上に、大恋愛をしてきたお方なのであります」
「だ、大恋愛?」
正直、マリアの苦手なワードである。
マリアは、月刊少女マンガを、毎月楽しむ娘。
しかし、実際に少女マンガ雑誌を買っているユーザーは、翔子姉さん。
マリアは、少女マンガのキスシーンとか読んでるのを恥ずかしくなるタイプである。
「天使が見える、永井クリスに見つめられると、ドキドキが止まらないのでございます」
「大恋愛でありますね。ミカエル様!」
「…人間と天使が大恋愛って、アニメみたいね?」
マリアが聞くと、ミカエル様が否定する。
「アニメじゃないでございます。本当のことでございます」
ミカエル様は、顔がだんだん赤くなってきたので、恋愛方面の話を切り替える。
マリアが、今まで、ダークアニマルンと戦ってきたことのお礼のため、頭を下げた。
黒いイノシシ、イヌ、トリの撃破は、マリアの勇気とやる気のおかげだと、感謝した。
マリアが、協力者となってくれたこと。
マリアが、戦う女の娘として頑張ってくれたこと。
ミカエル様は、深々と
「ありがとうございます」
と、言う。
そして、微笑む。
「…えー。私、そこまでのことしたかしら?」
マリアは、少し照れてしまう。
「他者のために、何かをするということは、とても素晴らしいことでございますよ」
微笑む大天使は、再び、話を切り替える。
ダークアニマルンについてだ。
ダークアニマルンは、天使が見える精神障害者を狙う。
天使が見える人間は、そうそうといないのだが、極力、同じ場所に集まれば、ダークアニマルンも集まる。
「と、いうことで。遠藤マリアのいる、この病院に、永井クリスを転院させるのでございます」




