その4 マリア、鳥とバトる〈1〉
「私、天使のこと、ちゃんと考えてなかったんだけど。何か、事情とか。目的とかあるのよね」
「あります。遠藤マリア」
「で、私は、黒いイノシシとか、イヌとか、見てきたんだけど」
マリアは、大きく肩で息をした。
問い詰めたいことがあるからだ。
「私、これから、鳥と戦うのかしら?」
「理解が速いでありますね。遠藤マリア」
天使は、精神病院の女性棟の外庭にある大きな木の下で、何度もうなづく。
大きな木の上には、黒いトリが、数羽、羽ばたき合っていた。
「アレ、全部倒すとか無理よ?」
その4 マリア、鳥とバトる〈1〉
「すでに、簡単に説明したはずであります」
「私、おぼえてないわよ。ちゃんと聞いてなかった」
「それでは、くわしく説明するであります」
天使は、まず、自分が見習いで、大天使ミカエル様に仕えていること。
遠藤マリアの守護天使になったことを、伝えた。
「うん。わかったわ」
「で、ありまして…」
遠藤マリアは、天使が見えて、会話もできる“特別者”であること。
天使は、一部の精神病患者にしか見えないこと。
「うんうん。私が、すごい女の娘だということね」
「そうなのです。遠藤マリアは、すごいのであります」
「ふふふ。あとは、何かしら?」
大天使ミカエル様は、“特別者”の遠藤マリアに、伝令
を送るため、守護天使アリエルを送った。
伝令とは、
“孤高の精神障害者の少年・永井クリスを守ること”
永井クリスは、有名なゲーム会社、永井コーポレーションの御曹司である。
彼は、天使は見えるが、会話が出来ない。
大天使ミカエル様は、彼が精神障害で天使が見えるようになってから、ずっと側で見守ってきた。
言葉は、なくとも。
すごく、仲良し。
いつも、一緒が良いよ。
良い。良い。
すごく、良い。
「ちょ、ちょっと、天使!何か、情報がおかしいわよ」
「おかしくないので、あります。大天使ミカエル様は、輝かしき美女大天使で、永井クリスを、それはもう愛しているのであります」
「あ、愛してるのね。天使が人間を」
「そうであります。愛ゆえなのであります」
そんな永井クリスは、幼少の頃、カラスに襲われて以来、動物が嫌いになった。
特に、黒い動物が、嫌いになった。
「黒い…動物」
「そうであります。ダークアニマルンであります」
黒い動物が、敵・ダークアニマルンであること。
ダークアニマルンは、天使が見える人間を敵視している霊的存在であること。
すなわち、遠藤マリアのバトルするべき敵なのだ!
「…」
「これから、一緒に頑張るであります!」
「…何で、私がバトルするのよ」
「この世界の、天使が見える全ての精神障害者のためであります」
天使は、グローバルを、見据えている。
「まあ、大体聞いたけど。とにかく、私が、天使のあんたと、黒い動物と戦う方向性なのよね」
「そうであります!」
「黒い動物っていうか。…アレ、黒いトリと、これから戦うの?」
「そうであります!遠藤マリア」
「無理よ。無理無理。私、飛べないもの。飛べる天使のあんたが戦えばいいじゃない」
マリアは、病棟の外庭にある、木のベンチに座り込んだ。
「天使は、戦えない決まりがあります。神の神器も、使えません。遠藤マリアが、頼りなのでありま…」
シュッ
突然、何かが、風を切る音がした。
音は、上空からで、木の上からだった。
数羽の黒いトリのうちの一羽が、獲物を狙うようなスピードで、天使に襲いかかった。
「きゃあ!」
天使は、思わず、悲鳴をあげながらも、これをかわす。
しかし、そのまま、羽ばたけなくなり、土の地面に転がり落ちてしまう。
「天使!大丈夫なの?」
「大丈夫…で、あります」
天使は、白い翼も、衣服も泥だらけになっている。
マリアは、それを見たあと、黒いトリをにらみ返した。
「トリ!天使に何てことするのよ!」
マリアは、ふつふつと、怒りがこみ上げてくるのを感じた。
天使を助けたいと思った。
だって、この娘。
悪い娘じゃないと思うから。
大天使とか、よくわからない話は、意味がちょっとわからない所もあるけれど。
天使の見た目は、人間の女の娘。
マリアと、同世代くらい。
友達になれそうな女の娘だ。
女の娘は、フィクションみたいな天使なのだから、色々、事情があって良し。
「…私、あんたのこと助けるわ。
そして、あのトリと戦ってやるわよ」




