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その3 マリア、バトルする

「行けーーー!」

マリアの華麗なドリフトが決まり、2位へ浮上する。

1位との差はあるが、けして、届かない距離ではない。

マリアの、優勝の可能性もあった。

十分にあった。

しかし、CPUは、無慈悲に妨害サンダーアイテムを使い、首位をゆずってはくれなかった。

マリアは、負けたのだ。

「遠藤マリアの負けでありますね」

「私は、全部出しきった。悔いはないわ」

マリアは、ゆっくりと、スマホのコントローラーをテーブルに置き、大きく背伸びした。


その3 マリア、バトルする


「マリアさん、天使さん、ゲーム楽しいね」

「そうね、奈々美ちゃん。面白いゲーム教えてくれてありがとう」

「えへへ」

マリアより、一つ年下の中学生・仮田奈々美ちゃん。少女は、マリア以外に女性棟で天使が見える、唯一の入院患者であった。

やはり、天使が見えるなんて、そうそう無いのだ。

精神病は、よくわからない。

「このゲーム、永井コーポレーションの作った有名なレースゲームなの」

「永井コーポレーションって、何?」

奈々美ちゃんに、率直な意見をぶつけるマリア。

「ゲーム会社だよ」

「会社って、私くわしくないのよね」

「うん。あたしも、ゲーム会社になんてくわしくないよ。永井以外、知らないよ」

奈々美ちゃんは、その後、家族が面会に来るからと、この場を立ち去った。

大型テレビの置いてある大広間には、他にも、何人かの入院患者がくつろいでいる。

奈々美ちゃん以外には、天使が見えてないから、会話という名の独り言は、避けたい。

アニメや、ゲームでは、“天使”や“悪魔”だって、当然のように出てくるけれど。

現実では、マリアの周囲の大人達には、そんな“夢”の当然なんて、全く無い。

全ては、“幻”。

本当の、夢は東京ファンタジーランドにだけある。

天使との会話を警戒したマリアは、テレビの音量を、少し上げた。


「遠藤マリア。ちょっと」

案の定、天使アリエルが話しかけてきた。

「…ねえ、天使。あんまり、私に、話しかけるのやめてくれないかしら」

「遠藤マリア。ダークアニマルンとバトルしてくれるでありますか?」

「うるさいわね。」

「奈々美ちゃんの危機であります」

「え…」


ザワ


マリアは、背筋から、下から上へと冷感をおぼえた。

何か、怖い。

少し、イライラ。

「遠藤マリア…」

「話しかけないで。何よ、この感じ…」

「遠藤マリア、忠告があります」

「何よ」

「奈々美ちゃんは、ダークアニマルンに襲われるであります」

「な、何ですって!」


病院内は、意外と迷路だ。

一人の少女を探すのには、手を焼く。

しかし、ざわつく気配を探して進めばいいはずだ。

マリアには、そう思えた。

何故、奈々美ちゃんが危ないかと言うと、ダークアニマルンという黒い動物は、天使が見える者にしか見えず。

ダークアニマルンは、自身を見える者を襲うからだということらしい。

「ダークアニマルンには、独特の気配があります」

「何か、私、それわかるわ」

病院内は、ゆっくり歩かないといけない。

マリアは、白い上履きで、テクテクと。

天使は、白い翼で羽ばたいて、バサバサと。

進む。

すると、人気の無い長い廊下にたどり着く。


「怖いよ~。イヌ嫌いだもん。怖いよ~」

奈々美ちゃんは、うずくまって泣いていた。


ワウワウ

ワヲーン


黒い大型のイヌが、病院内にいた。

異様な光景である。

奈々美ちゃんは、ケガは無さそうだったが、イヌの威圧感に、完全に腰をぬかせていた。

「天使、奈々美ちゃんから、イヌを遠ざけるために、オトリになりなさい」

「いやいや、遠藤マリアが、バトルをするのでありますよ」

天使アリエルは、片手を高々と上げる。

「遠藤マリア。このポセイドンの槍を授けるのであります」

光りが、天上からまぶしく注ぎ込まれてきている。

「ちょ、ちょっと。私、無理無理」

「遠藤マリアなら、できるであります!」

「…う、うん。そうよね」

マリアは、おそるおそる、ポセイドンの槍を手に取る。

これって、武器?

刺す?

いやいや、突っつくとかかしら?

マリアは、意外と軽いポセイドンの槍を持ったまま、ジリジリと黒いイヌとの距離を縮めた。

「マ、マリアさんっ」

「奈々美ちゃん、助けるわよ!」

ゆっくりと、黒いイヌを突っつく。


ドドドッ


と、水流のような幻が流れて、黒いイヌは壁に叩きつけられた。

シュウウウウ

シュウウ

黒いイヌは、ゆっくりと消え去る。

ポセイドンの槍。

すごい威力である。

「わ、私が、やったの?ごめんなさい、イヌ」

マリアは、心の中で、イヌに何度も謝った。

「遠藤マリア、大勝利であります」

「私、やりすぎなんじゃないの、これって」

マリアの手元から、槍が消える。

「マリアさん、イヌ怖かった〜。うえーん」

「奈々美ちゃん、大丈夫?」

奈々美ちゃんが、泣いていると遠くから、「奈々美」と呼ぶ声がする。

奈々美ちゃんは、そのまま、両親に連れられて、女性棟に戻って行った。

その後、奈々美ちゃんの一時退院が決まった。

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