第十一話 待ちわびた約束
九月三十日。
放課後の窓から差し込む陽光は、真夏のそれとは違い、どこか寂しげな黄金色を帯び始めていました。
明日からは十月。英和女学館の校内には、明日からの「冬夏併用期間」を知らせる掲示板が貼り出されています。十月半ばまでは白ソックスで過ごしても良いという猶予期間ですが、沙也加と春奈にとって、その掲示は「ようやくあの場所へ戻れる」という合図に他なりませんでした。
「沙也加ちゃん、準備はできてる?」
放課後の誰もいない教室。春奈が隣の席に歩み寄り、声を弾ませました。
二人の足元は、今日が最後となる指定の白ソックス。夏の間、軽やかで無垢な象徴だったその「白」も、今の二人にはどこか物足りない、仮の姿のように感じられていました。
「もちろん。クローゼットの一番手前に、あの濃紺のセーラー服と、新しい黒タイツを準備してあるよ」
沙也加は、窓の外を流れる鱗雲を見つめながら微笑みました。
「明日からは、もうあのスースーする心もとなさを感じなくて済むんだね。やっと、本当の私たちに戻れる気がする」
「みんなはきっと、しばらくは白ソックスのままだよね。……暑がりな子が多いもの」
春奈が少しだけいたずらっぽく笑いました。
「でも、私たちは明日、登校するその瞬間から『黒』を選ぼう?」
併用期間は、周囲に合わせるための期間ではありません。自分たちが最も「自分らしく」いられる装いを選ぶための期間。
二人の答えは、四月に初めて出会ったあの時から、既に決まっていました。
「ええ。明日、校門で会う時が楽しみ。きっと、誰よりも早く『秋』を纏っているのは、私たち二人だけだわ」
沙也加の言葉に、春奈は自分の足首をそっと手で隠すように触れました。明日、そこには再び、光を吸い込み、凛とした知性を宿す漆黒の生地が密着しているはずです。
「ねえ、沙也加ちゃん。明日の朝、いつもの角で待ち合わせしない? 二人で一緒に、最初の『黒い足音』を響かせて登校したいの」
「素敵……! そうしましょう、春奈ちゃん」
二人は、白ソックスに包まれた最後の一日を惜しむように、ゆっくりと校門へ向かいました。
「明日からは、またあの紺碧のセーラーと……」
「……黒の残像、だね」
二人は顔を見合わせ、声を揃えて笑いました。
夏の間、高原で、あるいはヒマワリ畑で育んできた絆。それが再び、伝統ある濃紺の制服と、重厚な黒タイツという「鎧」によって、より強固なものへと変わる。
十一歳の二人が迎える、二度目の「黒い季節」が、すぐそこまで来ていました。




