第十話 ヒマワリ迷路と白い影 ※挿絵あり
夏の太陽が真上から降り注ぐ午後。沙也加の家の近くにある公園では、今を盛りと大輪のヒマワリが咲き誇っていました。
「沙也加ちゃん、準備はいい?」
「うん。行きましょう、春奈ちゃん」
二人はお揃いの麦わら帽子を被り、玄関を飛び出しました。風になびくリボン、ふわりと広がるワンピース。そしてその足元には、先ほど履き替えたばかりの、繊細な白いレース柄タイツが陽光を浴びて白く輝いていました。
公園の一角にあるヒマワリ畑に到着すると、自分の背丈よりも高い花々に囲まれて、二人はまるで異世界に迷い込んだような心地になりました。
「わあ、すごい! まるでヒマワリの迷路だね」
沙也加が声を弾ませて走ると、白いレースの裾から覗く足元が、黄金色の花びらと鮮やかなコントラストを描きます。
「沙也加ちゃん、待って! 転ばないように気をつけてね」
春奈も後を追います。二人が歩くたび、土の匂いとヒマワリの香りが混ざり合い、麦わら帽子の影がレースタイツの上を不規則に揺れ動きました。
ふと、二人はヒマワリの影が落ちるベンチで足を止めました。
「ねえ、見て。ヒマワリの黄色と、私たちのタイツの白……なんだか、すごく夏って感じがしない?」
春奈が隣に座り、足を揃えて前へ伸ばしました。レースの網目から覗く肌の質感が、強い日差しの中で透き通るように見えます。
「本当だね。学校の黒タイツも大好きだけど、こうして夏の花に囲まれていると、この白いレースが一番綺麗に見える気がする」
沙也加も自分の足を並べました。
麦わら帽子の広い庇が作る陰の中で、二人の白い足元だけが、まるで発光しているかのように浮き立っています。通り過ぎる人々が、真夏にタイツを履いた風変わりで、それでいて絵画のように美しい二人の少女を、感嘆の目で見つめていきました。
「沙也加ちゃん、汗……大丈夫?」
春奈がハンカチで沙也加の額を優しく拭いました。
「少し暑いけど、平気だよ。だって、このタイツを履いていると、自分が特別な存在になれた気がするんだもん」
沙也加は、レース越しに伝わる夏の空気を感じながら、春奈の麦わら帽子のリボンを整えてあげました。
「秋になったらまた、あの深い紺碧のセーラー服と黒タイツに戻るけれど。今年の夏はこの『白』を、一生忘れない思い出にしようね」
「うん。私たちだけの、秘密の夏色だね」
ヒマワリが風に揺れ、ザワザワと音を立てます。
二人の少女は、お揃いの白い足音を響かせながら、黄金色の迷路の奥へと再び歩き出しました。それは、十一歳の夏にしか刻めない、眩しすぎるほどの一ページでした。




