34話 主の回復
トキとハーベナーが談笑していると部屋の戸を誰かがノックした。
「あ、今出まs──」
「バカ気にするなっ──」
トキが応じて立ち上がった直後、床に倒れこんだ。
「えっ? え? なんで? さっきまで……」
自分の体に力が入らずむしろ手足が痙攣してうまく動かせないトキは半ばパニックに陥る。
「そりゃそうさ。さっきまで私のスキルでギリギリ誤魔化してたんだからそれが途切れたらこうなるに決まってんでしょうよ。翁、出て」
トキはハーべナーの声と共に視界が暗転する。
◆◇◆
トキはゆっくり目を覚ました。
「…知ら──」
「──今起きられると私が死ぬからもう少し寝ててね」
トキの言葉を聞くより早く聞きなれた声と共に額に何かが刺さるとトキは深い眠りについた。
◇◆◇
どれくらい眠っていたのだろうか
トキは再びまどろみから目を覚ました。
先程の天井と変わりはなかった。しかし見覚えのない天井だった。
「…知らない天井……」
「「ご主人様(主様)がやっと起きたぁぁぁぁあああああ!」」
「ユネ、セラ、心配かけt──」
──ゴキゴキグキボキ……
両サイドから抱きつかれたトキの身体が悲鳴をあげる。
「──コフッ」
「あんたたちステイ! ステイ! トキが死にかけてる! ブレイクブレーク!」
そばで見ていたハーべナーは慌てて拘束術式を展開する。
ユネとセラが引き離されるのを薄れゆく意識の中で見届けながらトキは意識をそっと手放した。
◆◇◆
3度目に目を覚ますと涙目のユネとセラが光の紐で亀甲縛りで吊り下げられた天井が目に入った。
「ほひゅひんひゃまー」
「はるひはまー」
「知らない天井…」
「ここは私の診察室。迷宮が近くにある宿ってことでこういう設備もあるのさ」
「ハーべn──痛っ」
体を起こそうとすると上半身に激痛が走る。
「動くんじゃないよって言っても動ける状態じゃないだろうけど…。何があったか覚えてるかい?そこの2人に抱きつかれて上半身が複雑骨折。毒が毒だけだった為、回復魔法も使えない。
毒だけだったら問題ないレベルまで回復したのに馬鹿どもが余計な仕事増やしたおかげで全治1年ってとこかな」
「1年…」
その間何も出来ないという事実にトキは絶望する。
「それと完治後、年に4回定期検診を受けてもらう。ユネ、あんたもだよ」
「わひゃひも?!」
「当然さね。医者の言う事聞かずにあのスキルの無茶な使い方しやがって……」
ハーべナーはこめかみに青筋立てながらカルテを見ながら言う。
「そういえばセラは定期検診受けなくていいの?」
「セラは優等生だからね『今のところ』は問題ない。それに命を削るようなスキル及び無茶な使い方なんてセラには無いからね」
ハーべナーの言にセラはドヤ顔で胸を張る。
「ところで何で2人は縛られてるの? 2人の力なら拘束術式くらい引きちぎれるんじゃない?」
「私らも日々進化してるのさ。
セラには脱力するツボに鍼を打ち込んだ上で拘束してる。
ユネに関しては魔力が一定以上になると強制的に垂れ流すツボに鍼を打ち込んである。
ユネの馬鹿力の正体は魔力による肉体強化だからね。
今のユネはそんじょそこらの魔術師以下いやろくに魔術も発動できないから『魔術師見習い以下の魔術師』だね」
「ほんらいはい。はひゅひゅふらいふはえるも──【問題ない。魔術くらい使えるも──】」
そう言って空中に魔力が集まるがすぐさま霧散する。
「大気中の魔力を使うことも考慮してるわ。たわけ。
ユネに施したのは魔力を垂れ流すツボ『だけ』じゃない。
魔力を上手く感知できなくさせるツボも刺激しているのさ。
体内の魔力すらろくに感知出来ない状況で大気中の魔力をかき集めようなんざよくできるもんだ。一瞬焦ったわ」
ハーべナーは額を拭うふりをしてみせる。
「まぁしばらくは絶対安静かな」
ハーべナーの言葉にトキはしょんぼりする。
「とりあえず包帯は1日1回。仕事の都合で夜に取替える。使う包帯には月の雫と呼ばれる薬を塗布している。何か異論もしくは質問はあるかい?」
「月の雫って?」
「聖女が光属性の魔力を溶かしこんだ水『聖水』を満月の月の光に十分に当てた聖水の派生薬品さ」
「聖女……」
トキは息を飲む。一体どれだけの高額な薬なのだろう。トキの思考はそれでもちきりだった。
「なぁに心配しなさんな。何も聖女が作る必要は無い。水属性と光属性が十全に使えれば誰でもいいのさ」
「でも満月の月明かりが必要なんでしょ? 満月の日が必ず晴れるとは限らないし……」
「問題ないさ晴れてなかったら極大魔術で雲を吹き飛ばせばいいだけの話さ」
「……」
「ここは最高位の冒険者が集まる宿《憩いの狩場》。分厚い雲を晴らすのも聖水作るのも他愛もない連中がわんさかいる。下界じゃ高価な薬も二束三文。ただ下界じゃ二束三文の品が逆に高価なくらいさ」
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