side C 02
若干バトルっぽいのが入りそうで入らない感じです。
三大欲求は快感を伴うというのを昔何処かで聞いた事があるが、それ以外の行為に快感は伴わないかと言われればそんな馬鹿な話はない。例えば殺人行為。破壊行為の延長、ではない。同種であるヒトを殺した場合のみ得られる快感。何故、三大欲求の対極といえる非生産行為に快感を得るかという話だが、ソコはまあ、『俺だから』で問題ない。個性万歳。
ここ三日間程人を殺していない。今日誰も殺さなかったら四日間タダのニートしてた事になる。それはちょっと怒られそうなので、仕事しよう。場合によっては仕事ではなく趣味になるかもしれないが、金はあるので問題ない。携帯電話で標的を調べる。ウルザブルン教の裏トップページに飛んで、IDとパスワードを入力する。MRSであると断言出来る人間のリストのうち『顔写真あり』だけを選択する。ここに載っている人は、『発見したら攫ってこい』ではなく『発見したら殺して良し』。俺好みの人間である。攫ってくる仕事も時々するのだが、俺には難しい。目の前で無防備な人間が居るのに殺すなってのは、ねェ。
……嫌な事を思い出した。数日前、正しくは最近人を殺した日。攫ってこないといけないのに殺してしまって出来た死体を男子高校生に見られた。後ろから殺そうとしたが一切隙がなかった。後数センチ殺意を持って近付いていたら危なかった。しょうがないから家まで送る途中に殺そうと思ってたら結局ずっと隙がなかったから諦めた。何だアレ。武道の達人か。まあ、あの様子じゃ一番困る警察に通報、という選択は為されていないだろうから、安心した。安心したのだが、その後にもう一人、目撃者を発見した。殺人犯にあんな風に絡んでくるなんて命知らずな野郎だなぁ、と思ったら違った。女だった。いや、そこは置いといて。命知らずではなく、強者の余裕だった訳だ。隙があったのも、余裕だったからだろう。あの人、柔道でもやってんのかな。幸いこの人も警察に通報しないとは言っていたけど、気紛れで行動しそうな恐ろしさがある人だし、不安。
まあそんな感じで二回もお預けを喰らった所為で、三日しか我慢していないのに飢え、渇き、眠く、発情しているみたいに人が殺したい。今はまだ我慢が利くが、後二日くらい人を殺さなかったら、人混みの中だろうと交番の前だろうと人を見かけたら殺しかねない。昔、うっかり交番の裏で殺した事あるけど。閑話休題。まあ幸いな事に、人気のないこの田舎道にもたまには人が通る。しかも、一人で。
ポケットの中のナイフのケースを親指でずらし、すぐに取り出せるようにする。この、返り血とかが厄介な得物を愛用している理由は自分でも断言出来ない。おそらく、ハジメテが包丁だったからだろう。当初はフライパンの予定だったけど。
五メートル程先に居る男は、背は俺に近く華奢な方で、殺し易そうだ。
互いの距離が二メートルになった辺りで跳びかかる。狙いは心臓。後二十センチという所で、相手の右手が見えた。正しくはナイフが見えた。
自分のナイフが弾かれる。ナイフを離さない事に集中していたから、体はナイフと共に左へ傾く。相手はこちらの首を狙っていた。体を捻って避けたかったが、俺の左肩が少し削られ、血が噴き出た。
あんまりだ。
「あー……うん、まぁ殺人症でもなくて特別鍛えてもなけりゃこんなモンだろ」
相手は肩をすくめて、ナイフを仕舞った。
「MRSだって元の身体能力にプラスされるだけだから、場合によっちゃあ大した事ないだろ」
今まで、何人かMRS患者を殺してきた経験からそう言える。
男はへらへらと笑いながら俺に訊いた。
「さて、質問。俺を殺そうとしたのは仕事? それとも趣味?」
コイツも俺の事知ってんのか。あの女といい、気に障る。
……いや、待て。俺の事を知ってて、仕事かどうかって事は。
「……MRS?」
「うん。青判定」
脳内で検索。
「吉沢……えっと、何だっけ?」
見た事あるこの顔ー。数分前に携帯でー。
「どうせ呼ばないから名字だけでいいよね。それと、仕事はちゃんとした方がいいと思うよ」
いや、人殺せて金貰えるならいいなぁって思っただけだからなぁ……。
気を取り直して。
「ま、青って聞けて安心した。それなら、元は知らないけど身体能力は大して上がってないって事だろ?」
「いや。あの判定、殺意の範囲だけだよ」
「……え?」
「どれくらいの人に殺意を抱くかで青、気、赤、黒に分けられる。身体能力の上昇は関係ないんだけど……ウルザブルン教で仕事貰ってんなら説明されなかった?」
「どーだったけなぁ……」
成程。為になった。
吉沢は肩をすくめて、後ろを向いた。多分殺し屋だったから、さっきのはタダの自衛だろう。助かった。
こんな良い場所で殺せなかったのは残念だったが、相手が悪かったって事で「じゃあねトミナ。人喰い犬と飼い主に宜しく」吉沢が言い終わった辺りで右肩を切り裂いた。勿論狙いは首だったが、ギリギリで反応しやがった。
ま、仕返しにはなったろ。
「へェ? まだヤる気あったんだ。相当だね、殺人鬼」
「一生そう呼んでりゃ諦めるさ」
「流石に鬼でも実力差は分かるんだ、トミナ」
今度は上手く捌かれた。勿論、実力差は分かっている。
けれど、コレは駄目だ。生かしたらいけない。
「……何で俺の本名知ってんだよ」
ウルザブルンの連中だって知らないのに。名付けた奴は死んだのに。
「情報屋口説いて大金積んで酒飲まして恩売って吐かせただけ。……うんまあ、普通はこれくらいしないといけないんだけどね」
そう言って苦笑した。誰だその情報屋。殺さないと。
「……あ、そっか。人殺しが本名知られてちゃ危ないよね。でも残念。たとえ此処で俺を殺したって、依頼人は君の名前を知ってたからね。『トミナって殺人鬼を殺してくれ』みたいな事を言ってたから」
依頼があったのか。推測外れてた。
「じゃあ何でさっき帰ろうとした?」
「厳密には殺してくれとはちょっと違ったんだよ」
俺の血が付着しているナイフをこちらに向けて、吉沢は言った。
結構、様になってる。
「こっちはお前を殺してもいいから、次で終わるぜ、殺人鬼」
ナイフをポケットに仕舞う。あっちがその気なら勝てる訳がない。諦める事にした。
三人も連続でお預け喰らった殺人鬼とは、惨めなモノである。
でもまぁ、少し暗くなった人気のないこんな道を一人で歩く人も居る。
殺人鬼でもなく武道の達人でもなく、大した戦闘能力を有さない人間が。
今更ですが三点リーダー多いんだろうなあ、私。




