main 08
結構長いです。
再会を噛み締める間もなくバトルパート突入です。トミナさん超笑顔。こえー。……多分、真さんを殺したのは明だな。という事は、トミナさんは殺人欲求的なのが高まってると予想。
じゃあ可哀相だけど、もうちょいお預けさせて貰おう。思い切り右に跳んで回避。トミナさんに向き直って蹴り上げる。当てる気はなしで牽制目的だったが、ナイフ持ってる相手にコレは迂闊だったと言わざるを得ない。安全靴じゃないし、切られる所だった。慌てて脚を戻して少し下がり、腹をアッパーするノリで前に出る。下がって回避される。牽制代わりだろうナイフが意外と際どく、前髪を散らす。嗚呼、アシンメトリー確定。まあ元々シンメトリーって訳でもないが。もう一度、さっきよりは控えめに右に跳び、右足で着地して左脚で相手の脛付近を適当に蹴る。若干の手応え。腹を狙ったナイフを、トミナさんの手首を両手で掴んで止める。南無。
「っ、い」
軽いトミナさんの悲鳴。
個人的に一番コスパが悪いと思っている技、頭突きを決めてみた。結果は中々。
手首を握る両手の力を更に強くして、左足を踏みつけて、
「とーう」と気の抜けた声を出しながら、と押し相撲を思い出してみる。左足を解放するタイミングはもうちょい遅い方が良かったかもしれない。出鱈目に振られたナイフがまたも結構危うい。左腕の服を軽く裂く。お気に入りとかじゃなくて良かった。適当にローキック、空振り。向こうのナイフも空、げ。腹、一発殴られた。当然、ナイフが来るからそれは頑張って避けて、その手を狙った蹴り……はあまりナイフに近づきすぎない段階で引っ込める。接近して、拳を顔に当てると見せかけての鎖骨狙い。トミナさん、後退。こっちも正直疲れた。
息を吐いて、呼吸を整える。余裕ぶった台詞なんてモノを、一つ。
「ところでトミナさん。そんなに開けっ放しの扉の近くに居るなんて、暑いんですか? それとも外に出たいんですか?」
「は? いや別に、い?」
トミナさんの困惑した声と、明の消えそうな悲鳴。
扉の外から腕が伸びて来て、あっさりとトミナさんを外へと引き摺り出した。ちょっとしたホラー、というよりはコメディか。男一人を片腕で引き摺り出したにしては細い腕だったし。
いやしかし、幾ら位置関係を少しは考えないといけないからって苦戦だった。やっぱり不意打ちに近い事しないとこうなっちゃうよね。
まあそんなこんなで、二人きりだ。
「改めて久し振り。中々元気だったみたいじゃん。ちょっと吃驚したよ、死んでるかと思ってたし」
懐かしさに頬が上がる。吊り上がる。
「いやしかし、本当にバレないもんだね。死体の方は眼鏡の度が弱いとか結構違いあるのに。まあしょうがないか、長い事会ってなかったし。山口君にまで手ェ出そうとしたのは吃驚したよ。結果的に有難かったけど、本当に焦ったよ。うん、だからまあ、復讐がどうとかは成功だと思うよ?」
……わあ、ノーリアクション。てか震えたり泣いたり忙しいな、この人。
あー、とか言って間を置いて、会話もどき再開。
「ま、何と言うか、さ。仲直りしようか」
「……え?」
「俺が……もとい、私が昔した事をさ、ガキのした事だって水に流して欲しい。代わりと言っては何だけど、今回殺されかけた事は水に流すよ」
「……殺さ、ないの?」
「人を殺人鬼と間違ってない?」
子供に話しかける時みたいに屈んで、へたり込んでいる明と目を合わせる。
「ね。他人恨んだってどうしようもないんだからさ。お姉ちゃん」
息を吞む音。明の言葉を待つ必要はない。外の空気を吸いに行こう。
掘っ立て小屋の外、入口出口から数メートル先に、男二人が寝転がってらっしゃる。
いや、まあ寝転がり方がそこまでときめく感じじゃないけれど。
のんびり歩み寄って、遠慮なく吉沢さんとトミナさんを見下す。
「えーと、袈裟固?」
「惜しい、崩袈裟固でした」
「初耳です。……無抵抗だったんですか?」
「いや、暫くして諦めた。柔道とか殆どやってないし」
トミナさんが答えた。ふむ、諦めて結構経った後か。息切れてないし口調に余裕があるし。
「で。君はクライアントを殺したのかな? 坂井さん」
「いえいえ。余裕で生きてますので、どうぞ報酬を御受け取りに行って下さい」
「貰えるかなぁ」
「頑張って貰いましょう。非は向こうにありますし」
吉沢さんが無言でトミナさんを解放する。トミナさんはのんびりと立ち上がって、扉に後ろ歩きで向かう。……警戒するんだ。ちょっと意外。
「お疲れ様です」
「いえいえ」
そう返事して、トミナさんの倍くらいの速さで立ち上がる。この場合、トミナさんがのんびりさんだったという話でしかない。
「ブリーダーさん、殺しちゃったりしてません?」
「殺してないよ。仕事以外で人殺すとか危なすぎる」
「仕事だったら殺してました?」
「……ま、仲の良い先輩ですし?」
少し恥ずかしそうな答え。トミナさんは同級生を殺そうとしてましたがそれは関係ないね。
「……そっちはどう? 喧嘩して仲直りは上手くいった?」
「どうでしょう。まあ多分成功したっぽいですね、反応見る限り」
ちらり、と掘っ立て小屋を見る。意外と防音はいいのだろうか……てか結構な距離だしな。
「ではお待ちかねの、報酬代わりの仕事ですね」
「……コレを楽しみにしてた、って思われたくはないけど」
「ええ、俺もケチってるとは思われたくはないんですけど」
「……楽な仕事で三百万だろ?」
何言ってんの、という顔をする吉沢さん。
「や、先に謝っておきますごめんなさい。予想より難易度が上がったかもしれないです」
仕事を依頼すると、彼は驚いた後、簡単だと笑った。
さて、どうだろう。先程まで俺と一緒に掘っ立て小屋に居た、坂井明を殺せるだろうか。
次は後日談。そろそろ終わりますよ。




