side D 04
坂井さんに言われたように携帯電話は後ろのポケットに入れてある。勿論何も言われていないけど、ナイフは持ってきている。財布は素で忘れた。
適当な木に登る。公園のベンチに座る、坂井さんを見る。しかしアレだな、今から貴女拉致られますよって知ってるのに凄い普通だなあの人。
時計を見る。そろそろ、ブリーダーがやって来る予定。
「…………」
俺が息を呑むのと、坂井さんが立ち上がるのが同時だった。次いで、ブリーダーが自分に気付かれた事に察し、行動に出る。
木から飛び降りる。駆ける足音の方に向かう。
今は隠れていて見えないが、ブリーダーの位置は木の上からは普通に見えていた。尤も、坂井さんが反応したのはブリーダーではなく、金髪の男だったのだが。
「……ハ、こっちは変わってないんだな」
ぼそり、と呟いた。
前に喫茶店で坂井さんに教えてあげた、倫理道徳その他諸々に問題がある話。
「坂井さんちょっとこっち寄って。カキワラが食事中だし」
素直に彼女は顔を寄せる。
「もう一匹って言ってるし、実際アイツ等はそういう認識なんだけどさ。死体を食べる犬は一匹だけなんだ。……つまりその、人間……食人鬼って事」
この情報への感想が、「じゃあ黒い犬の方が強いんだろうなあ」だったと話したら、ブリーダーは何て言うだろうか。
ナイフを使うか一瞬迷う。その一瞬を突くように、金髪の食人鬼は俺に殴りかかる。
「おっせー」
軽く後ろに跳んで、その拳を蹴り上げる。
「駄目だな食人鬼。下手したら女の子より弱いぜ、お前」
「…………」
歯を見せる凶悪な表情。同属食いは人を狂わせるとか何とか。確かに何か目が違うんだよな、コイツ。トミナと違って。
「さ。頑張って飼い主守れよ?」
ブリーダーが雑談(割と一方的)中に出てきてくれるかと思ったのだが、そんな事はなかったので、食人鬼の体力回復時間を与えてしまうだけになった。残念。
先程、木登り中にブリーダーが居た場所へ駆ける。勿論、食人鬼は妨害する。戦術とか全く考えないで、腹を殴る。
「……よっと」
胸倉と袖を掴んで、一本背負い。いや実戦で使うとは思わなかった。いやしかし困った。頭打ったら危ないよね、とかちゃんと考えてやった所為で無力化には至ってない。脳内麻薬だなぁ。
「足はいざって時残さないと俺等捕まるから……。おい食人鬼。肩の関節、右と左どっちが大事?」
「危ない事言うなぁお前。どっちも止めてくれよ」
勿論それは食人鬼の声ではない。
やっと本命の、ブリーダーが出てきた。
「……いや、ええと、中ボスだっけ?」
「何言ってんのお前」
「何でも、……と」
慌てて横に跳んで、ブリーダーと食人鬼が視界に入るようにする。
「お前をコイツでどうにかするなら不意討ちって事くらい知ってんだよ俺は」
「……だから出てきたのか」
でも失敗してるぜお前。
言わなかったんだか、言えなかったんだか。




