side D 03
下手したら今迄のMRSの中で一番長いかもしれません。
反動ですね(話の構成が弱いからとか内緒です)。
「遅くにすみません。計画変更というか追加というか、そんな感じなんで、えっと……明日の十一時……はい、午前中です。カキワラが居る喫茶店に来てくれます?」
殺されかけても余裕だらけの女の子が明らかに焦ってたら、まあつられて焦るよね。
そんな夜中の電話の所為で、無駄に睡眠時間が削られた状態にある。
こんな状態で、昔本気出して口説いた情報屋と人使いの荒い女の子に会うとか辛い。
「こんにちは、吉沢さん?」
「……久し振り」
何となく、坂井さんは早めに来るタイプっぽいので先にコイツが来たのは意外……でもないか。まだ十一時まで十分はあるし。
「前は結構飲んでたけど、今日は?」
「流石にこんな時間から酒飲むかよ……アイスコーヒー。もう頼んでる」
とか何とか話して。
カキワラがレモンティーを注文して、俺のアイスコーヒーが届いて、カキワラのレモンティーが届いた辺りで、坂井さんがやってきた。因みにこの時点で待ち合わせより五分以上早い。だから遅れてすみませんとか言われると罪悪感があるから止めて頂きたい。そんな俺の心理状態とは裏腹に彼女は軽く謝って、アイスティーを注文した。
アイスティーを一口飲んで、彼女は本題に入った。
「例の坂井真殺人計画なんですけどね」
「うん」
「標的が俺だけじゃないみたいです」
「ん……ん? え、他に誰か居る?」
「俺が予想より長生きしちゃったから苛々が増加しちゃったみたいで。憂さ晴らしに、俺の友人をオマケに殺す予定だそうです」
「……カキワラ。前にその情報、売った?」
チラリ、と視線を遣って尋ねる。まあ情報と言ったら大体コイツだ。
「まさか。真さんのお友達なんて一般人の情報、売れた事ないわ。最近口止めされたし」
嘘を吐かない女ではないが、まあ信じていいだろう。
しかし、口止めまでしたんだ。一般人の情報を。
「じゃあ何処で明さんはその情報を知ったんだろ。君の事頑張って尾行した、とか?」
「それだったら困りますけど、アレ、普通に学校行ったりしてるから無理でしょう」
「情報の入手先は、私の商売敵みたいよ。……て事は、結構厄介な存在よね? 真さん?」
「邪魔な人が居るなら俺にどうぞ」
「タッグ組んで商売するのは後にして下さい。……まあ厄介さんが何処まで情報を流したか、ですが。俺の情報は流してないみたいだから、本格的な問題はありません」
その割には焦ってるというか困ってる感じなんだけど、この人。
「坂井さんもアレだ、友達は大事なんだ」
「そりゃまあ。友達になるのは苦手ですし」
作るって言わない辺りに、彼女の哲学がありそうだが。
まあそういう所を突くのは今度にして。
「じゃあ、その友人を守る為に、俺は何をしたらいい?」
「……そうですね」
一口、アイスティーを飲んで。手で目元を覆う。
どうも思考中らしい。どうしよう、する事がない。
「そういや吉沢さん。ウルザブルン教って名前の由来、知ってる?」
すげェカキワラ。雑談に入りやがった。首を横に振る。
「ふーん。知りたい?」
「……まあそこそこ。金出す程じゃあない」
「えー今日の昼御飯含めて奢ってくれる位いいじゃない」
いや、それくらいならいいんだけど。
「……北欧神話の世界樹、ユグドラシルの根は三つに分かれています。その内の一つ、アースガルズに向かう根の下にある泉の名前がウルザブルンです。強力な浄化作用を持ちますから、それが由来かと。あの当て字の方は知りません」
「……凄いな、君」
「ウルザブルンで調べりゃ一発でしょう、今の時代。まあ俺は神話とか好きだからって理由ですが。という訳で奢りは吉沢さんじゃなくてカキワラで」
ちぇー、と拗ねるカキワラ。若干、ざまあみろ的な感情が湧いてきた。いや、本当に俺が払ってもいいんだけど。世間体的にも。
いつの間にかカキワラが注文してたカツサンドがやってきた。遠慮なくカキワラはそれを手に取る。俺はそれを無視する事にした。多分坂井さんも。
溜息を吐いて、坂井さんは口を開いた。
「ウルザブルンを通してトミナに依頼したんだよな? アレはトミナと直接コンタクトを取る術がなかったから、お前がウルザブルンの情報を流した、合ってる?」
「ええ。まあ実際直接依頼人に会ったのはブリーダーだけなんだけど」
「じゃあウルザブルンはこの事を知っている?」
「全員がって事はないでしょうけど。まあ標的が誰かまでは知らないんじゃない? 手伝わせるとしてもブリーダーだけでしょうし。殺人症じゃなくても殺人鬼は嫌われ者よ」
「実質関わるのはトミナとブリーダーだけ。……じゃあ山口君を狙うのはトミナかな」
「さっきから呼び捨てになってるよー」一応、指摘しておいた。
「敬称略」ぼそり、と付け加えられた。いやまあ別に文句も問題もない。
「質問だけど、何で山口君? を狙うのはトミナって分かるの?」
「あー……顔見知りなんですよ、あの二人。見知らぬブリーダーさんがどうこうするより警戒心が解けるでしょう? ……まあどちらもトミナさんだけでやってくれた方が有難いんですが。二人共、俺と会った事がありますし」
「トミナよりブリーダーの方が闘える奴だしね。犬付きだったら」
「あ、その件で質問です……目ェ輝かせんな、カキワラは金取るからいい」
「俺が分かるレベルなら」
「どうも。前にもう一匹連れてくる、的な事言ってたんですけど、二匹居るんですか?」
「うん……坂井さんちょっとこっち寄って。カキワラが食事中だし」
「お気になさらずー」
いや、まあ知ってるだろうけど、念の為に聞こえないように坂井さんに話す。
「へぇ……じゃあ前に見た黒い犬の方が強いんですよね? もう一匹より」
「うん。それは確実。因みに運が結構悪くない限り俺が勝つ自信がある」
格好付けたつもりはないんだけど、坂井さんの反応は口笛だった。地味に恥ずかしい。
「取り敢えず憂さ晴らし……って言ってるかは定かじゃないけど、本命は俺だって話はしてるだろうから」
「うん。山口君だけじゃ意味ないから止めてね、みたいな注文付けてるらしい。逆ならいいけどって」
カキワラが坂井さんに答える形で話す。口の中に食べ物が入ってる間は喋るな、とかこういう時は言っちゃ駄目だよね、うん。
「……拉致と殺害予定日はまだ先だ。それをどうにかする」
ぼそり、と低い声で坂井さんが言う。
「あら、出来るの?」
ラストのカツサンドに齧りつきながら、カキワラが尋ねる。
「何時も通り、俺の掌の上に置く。手伝え」
やっと頬を持ち上げた彼女は、確かに俺の先輩とは違った。
こっちは口笛を吹く余裕もない。
「勿論、協力してあげる。タダとは言わせないけど」
「……好きにしろ、もう慣れた」
何があったんだろう。坂井さん、カキワラの事少し苦手みたいだし。
アイスティーを飲み干して、彼女は言った。
「えーと、吉沢さんはですね。詳しい事はまた後で決めますが、恐らく俺を拉致するであろうブリーダーさんを全力で足止めして下さい」
「えー」
「頑張って下さい。ほら、俺より貴方の方が強いじゃないですか」
そっと、右手を自分の腹に当てて微笑まれたらもう頷くしかない。最初躱したじゃん、とか言えない。まあリセットって言ったの俺だし。
「じゃあまた近い内に電話します。結構いい餌顔の前に垂らしてるんですから、お願いしますね?」
「……食えりゃいいんだけどね」
そんな感じで、作戦会議はお開き。
もうちょっと、焦った坂井さんを見たかったのは内緒だ。




