声を届ける
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その夜、俺たちはマルティーユの家で食事をしていた。
異世界に来てからの初日と違って、今日はちゃんと腹が減っている。
焼いた肉とスープと、固いパンみたいなもの。
見た目は違うけど、味はそこまで悪くない。だが、食感が現実世界とはかなり違っていた。パンに関してはフランスパンよりも固い。
「意外と普通だな」
俺が言うと、柚波が横で頷いた。
「ね、もっとヤバいの想像してた」
「ヤバいとは何だ」
マルティーユがスープのおかわりを注ぎながら、首をかしげる。
「いや、異世界ってさ」
「異世界?」
「気にしないでいいやつ」
柚波が笑って流した。俺たちからこの世界は異世界でも、マルティーユ達からは立派な現実世界であるという認識を忘れてしまう。
そのまま食事をしながら、健二が今日集めた情報を話し始めた。
「正直なところ、これまでも大した収穫はないな」
健二は肩をすくめる。
「他に人間がいるって話は出なかった」
「そっか……」
柚波の声が少し落ちる。
「ただな」
健二は続けた。
「昔はもっと種族同士の行き来があったらしい」
「昔?」
俺が聞く。
「ああ。今よりずっと前の話だ」
その言葉で、少し空気が変わった。
「遺跡とか、用途不明の建物もあるって話だ」
俺は無意識にさっきまで見ていた機械を思い出していた。
あれも、その一つなのかもしれない。
「じゃあ、その遺跡や建物を調べれば帰る方法を見つける事が出来るのか! 」
テンションが高くなる俺に対して健二は冷静な表情だった。
「各地にあるんだぞ。探すだけで骨が折れる」
沈黙が続く。
その空気を破ったのは柚波だった。
「ねぇねぇ」
軽いトーンだった。
でも目は真剣だった。
「ちょっと....思ってたんだけど」
「うん?」
「探しに行くの、効率悪くない?」
「は?」
俺が即答する。
「いやいや、どういうことだよ」
柚波はパンをかじりながら続ける。
「だってさ、他にも人間いるかもしれないんでしょ?」
「まあ……可能性はあるけどな」
健二が答える。
「だったらさ」
柚波は顔を上げた。
「向こうからも来てもらえばよくない?」
「どうやって?」
俺が聞く。
柚波は当然みたいな顔をした。
「拓海。私たちの仕事、忘れちゃった? 」
「ま、まさか....」
「放送か!?」
一瞬回りが静まり返る。
そして、すぐにマルティーユが聞き返す。
「放、送? 」
「声を遠くに届けるやつ」
柚波がまたマルティーユに説明する。
「それで呼ぶの」
「呼ぶって……」
俺は頭を押さえた。
「そんな都合よく人間来るわけないだろ」
「それだけじゃなくて、エルフや他の種族からも情報を提供してくれるかもしれないし。他の人間を見たとか」
「そんな上手くいかないだろ」
否定する俺に柚波は食い下がる。
「何もしないよりマシじゃない?」
「それはそうだけど」
「じゃあ決まり」
「勝手に決めるな」
健二が苦笑する。
「面白い発想だな」
「でしょ?私は放送部の部長だから」
柚波は少し得意げだ。
でも俺は現実的な問題を思い出す。
「柚波、よく考えろ冷静になって。まず機械がない」
「あるじゃん」
「どこにだよ」
柚波は親指で外を指した。
「マルティーユの家にあったやつ」
俺は固まった。
「いや、あれ動かないだろ」
「直せばいいじゃん」
「簡単に言うな」
「拓海がいるじゃん」
「俺はただの放送部だぞ」
「うん」
「エンジニアじゃない」
「でも機械担当でしょ?」
「……」
マルティーユが少し首をかしげる。
「お前たちは面白い会話をするな」
健二が笑った。
「まあ、悪くないアイデアだと思うぞ」
「健二まで?」
俺は頭を抱える。
「現実的じゃないって」
その時だった。
「設備ならある」
マルティーユが静かに言った。
「は?」
俺たちは同時に顔を上げた。
「村の中央に塔がある」
「塔?」
「昔からある聖塔だ」
長老も頷く。
「我らが守ってきたものだ」
「明日、見せよう」
翌日。
村の中央に立つその塔を見た瞬間、俺は言葉を失った。
石造りの巨大な塔。
しかしその上部には、明らかに人工的な金属構造が埋め込まれていた。
俺は無意識に近づく。
苔を払う。
見覚えのある網状の構造。
振動板のような形。
「……これ」
柚波が後ろから覗き込む。
「何それ?」
俺は答えられなかった。
喉が詰まる。
だが確信だけはあった。
「これ……」
ゆっくりと息を吐く。
「スピーカーだ」
その瞬間、柚波の目が輝いた。
「じゃあさ」
柚波は笑った。
「いけるじゃん」
俺は何も言えなかった。
ただ、その塔を見上げていた。
とうとう異世界放送部スタート!




