芸術は種族を超える
エルフの集落は驚くほど静かだった。
森の木々が風によって揺れる音だけがゆっくりと流れている。
長老との話のあと、俺たちは少し離れた場所で休んでいた。
「……まだ慣れないな」
俺がそう呟くと、柚波は小さく頷いた。
「うん。でも、思ったより落ち着いてる場所かも」
確かに、危険な場所というより“生活している場所”だった。
俺たちが、座っている切り株の隣には小さな滝がある。流水からは小さいながらも生命の息吹を感じる。
現実に世界に近いようで現実感がない。
少し離れた場所に、マルティーユが立っていた。
こちらを見ているが、近づいてくる様子はない。
まだ完全に信用されているわけじゃない。それも無理はない。種族は違うし、まだ会って数時間だ。信用してくれという方が難しい
「どうする?」
俺が聞くと、柚波は少し考えてから言った。
「ちょっと、話してみる」
「や、やめとけよ」
そう言う間もなく、柚波は歩き出していた。
「マルティーユさん」
柚波は自然に声をかけた。
マルティーユはわずかに視線を向ける。
「何だ」
「さっき助けてもらったお礼、ちゃんと言えてなかったので」
柚波は軽く頭を下げた。
「ありがとう」
その一言に、マルティーユの表情がほんの少しだけ変わる。
「弱き者を助けるのは当然のことだ。例え種族が違っていてもな」
「でも、本当に助かりました」
柚波は淡々と言う。
重くしないのに、ちゃんと伝える。
しばらく沈黙が流れたあと、柚波はふと何かを思い出したようにポケットからメモ帳を取り出した。
そしてペンを走らせる。
「何をしている?」
「……ちょっと待ってください」
◇
柚波は一枚の紙を差し出した。
そこにはマルティーユの横顔が描かれていた。
「これ、さっき見たマルティーユさんの似顔絵です」
マルティーユはそれを受け取る。
静かに見つめる。
「……これが、私なのか? 」
「はい。似てないかもしれないですけど」
「いや」
マルティーユは少しだけ目を細めた。
「面白い」
その一言に、空気が少し緩んだ。
「人間は、こういうものを作るのか」
「作りますね。世界は違っても、多分“見たものを残したい”って気持ちは同じです」
柚波はそう言った。
「芸術って、そういうものだと思います。例え種族が違っていても、芸術に対する気持ちはみんな同じだと思います。マルティーユさんが私たちを助けてくれたみたいに」
その言葉に、マルティーユはしばらく黙っていた。
そしてふと、俺の方を見た。
「お前の連れは変わっているな」
「よく言われます」
柚波は少し笑った。思えば、柚波は人とのコミュニケーションが得意だ。初対面の人とも仲良く会話をして入り込んでいける。その温かい懐は俺には到底手にする事が出来ない能力だ。
そのあとも、自然と話は続いた。
マルティーユは森のことを少しだけ語り、柚波はそれをメモしながら聞く。
マルティーユ曰く、エルフはこの世界の各地に潜んでおり、大きな争いが起きてから一部のエルフ達が身を潜めるようにエルフの森を形成し、潜んでいると。
気付けば、さっきまでの距離感が少しだけ縮まっていた。俺は話を聞きながら、エルフも人間と近しいと感じていた。
やがて柚波は言った。
「私たち、元の世界に帰る方法って分かりますか?」
その問いに、マルティーユはすぐには答えなかった。少しだけ考えてから、ゆっくりと口を開く。
「分からない。だが、長老なら何か知っているかもしれない」
その言葉を受けて、俺たちは再び長老のもとへ向かった。
「信頼、か」
長老は柚波の描いた絵を見ながら呟いた。
「エルフの中でも、ここまで短時間で他者と距離を縮める者は少ない」
長老は絵を見ながら少し笑っているように見えた。そして、視線がマルティーユに向く。
「珍しいな、お前がそこまで心を許すとは」
「……そうかもしれません。この二人は我々エルフとは程遠いです。でも....心は同じだと思いました」
マルティーユは小さく答えた。
長老はゆっくりと目を閉じる。
「ならば、一つだけ話しておこう」
空気が少し変わる。風は止まり無音になる。
「この森の外に、“隣の村”がある」
その言葉に、俺と柚波は顔を見合わせた。
「そこには、人間がいるという話だ」
森の静けさが、少しだけ違って聞こえた。俺たち以外にも人間がいる。それは何よりも大きな情報だった。
放送はもう少し先に出てきます。
しばらくお待ちください。
展開に急な所があると思いますが、それは放送の要素をなるべく早く出す為です。




