第四話 怪獣退治は私の特権だ!!
『もしもし〜、ハロー!私はキラリ!いずれ世界を救う……』
「ごめん、今それやってる場合じゃない。」
『田辺〜、なーんで私の決め台詞切っちゃうのさ!』
「一大事だからに決まってるだろ。てかタメ口やめろ、おれ上司だぞ。」
『はーい。』
「はぁ……。横浜駅周辺に怪獣が出現した。直ちに殲滅に向かってくれ。」
『りょーかーい。』
この世界では、時折“怪獣”が現れる。
それは災害のように突然現れ、街を踏み潰し、人を喰らい、文明を破壊する。戦車も戦闘機も通じない。そんな化け物を殺せるのは、“魔法少女”だけだった。
『キラリ到着。田辺〜さっさと自衛隊退けて。銃どころか、核兵器でも倒せないよあの怪獣。』
「了解、あとは任せた。タメ語やめろ、以上だ。」
『ほーい。……さてと。』
探さなくてもすぐわかる。街のど真ん中で、恐竜みたいな怪獣が、好き放題暴れているからだ。
ビルは積み木みたいに崩れ、車は玩具みたいに吹き飛んでいる。このまま放っておけば、被害は横浜全域に広がるだろう。
『やっちゃうよん!怪獣退治は私の特権だからね!――変身、キラリン・ドライブ♡』
彼女が魔法ステッキを掲げると、空中に無数の光輪が浮かび上がった。
制服のリボンが桜色の光へ変わり、その帯が彼女の身体へ巻き付いた。セーラー服は粒子のようにほどけ、代わりに純白と桃色のフリルドレスが形作られていく。黒タイツには銀のラインが走り、胸元にはハート型の宝石が一つ。半透明のマントが背後に揺れ、肩までの黒髪は鮮やかな桃色のポニーテールへ変わった。
次の瞬間、轟音と共に、横浜駅前のアスファルトが陥没する。
「なっ……!」
離れた場所で避難指揮を執っていた隊員たちが息を呑んだ。キラリの姿が消えていたからだ。いや、違う。速すぎて見えなかった。
怪獣の懐に潜り込んだ彼女は、軽やかに笑う。
『でっかいだけじゃ、私には勝てないぞ♡』
――グゥオオオオオオッ!!!!
怪獣が咆哮を上げ、大樹の幹のような尾を振るう。音の壁が砕けるほどの一撃。しかしキラリは、その尾の上にひらりと着地した。
『おそいおそい!』
ステッキを振る。淡い桃色の光が尾を包み込み――消えた。切断ですらない。“存在そのもの”が抜け落ちたように、怪獣の尾が根元から消失した。
『大人しくしなきゃダメでしょ?』
――グゥオオ!?!?
絶叫。その巨体が苦悶にのたうち回り、ビル群が連鎖的に崩落していく。避難中の人々から悲鳴が上がった。
「おい、まずいぞ! 二次被害が――」
『あー、うるさいなぁ。』
彼女は不満げに頬を膨らませると、空中でくるりと回った。ステッキの先端が、怪獣へ向く。
『じゃ、一気に終わらせるね!!』
その瞬間、空が裂けた。雲を押しのけるように、巨大な魔法陣が展開。桃色の光が横浜一帯を照らし、人々は思わず足を止めた。
「……なんだ、あれ……。」
『キラリン☆ディメンションロスト〜♡』
光が落ちる。そして、怪獣の上半身が、音もなく消滅した。数秒遅れて、残された下半身が崩れ落ちる。
轟音。土煙。沈黙。
『いえーい、討伐完了〜。』
彼女は瓦礫の上に降り立ち、ピースサインを浮かべた。通信機の向こうで、田辺が深いため息をつく。
「……毎回思うんだが、もう少し被害を抑えられないのか?」
『えー?でも街半分で済んだよ?』
「“済んだ”の基準がおかしいんだよお前は……。」
彼女はきょとんとしたあと、悪びれもなく笑った。
『まぁまぁ、私いなかったら日本消滅してるからさ!多めにみてよ!』
「それ毎回言ってるぞ。とにかくよくやった、撤収してくれ。」
『了解〜。』
電話を切り、彼女は思い切りのびをした。
『ん〜、疲れた。今日は帰りにスイーツ買ってこ!!』
こうして、魔法少女としての大仕事は無事終わったのであった。
一週間後……
「田辺さん、先週の怪獣討伐の報告書できました。」
「見せてみろ。……はぁ、相変わらずひでぇもんだ。いつも通り、うまく揉み消しといてくれ。」
「はい……。でも、このまま黙認したままでいいのですか?」
「仕方ないだろ。実際、あいつがいなければ日本人の大半は死んでるからな。ま、犠牲はつきものってやつだ。」
――X月XX日 横浜 怪獣討伐の被害報告――
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うち怪獣による被害者 4521人
魔法少女キラリによる被害者 ※※※※※人
(被害者数はマーカーで消されている。)




