第五話 煽り運転ダメ絶対!!
『ハロー!私はキラリ!いずれ世界を救う魔法少女だよ♡今日は他県で野暮用があるから、新車で高速をかっ飛ばしてるよ!』
三日前に納車されたばかりの真っ赤なオープンカーは、陽光を浴びてきらきら輝いていた。風を切る感覚が気持ちよくて、彼女はご機嫌で鼻歌を歌う。
『ん〜♪ やっぱり新車って最高だね〜♡』
平日の昼間ということもあり、高速道路は比較的空いている。流れる景色、青空、心地いいエンジン音。実に平和。実に素晴らしい。
その時だった。
後方から、ぴったり張り付くように黒いSUVが迫ってきた。
『わっ、近い近い。』
ルームミラーいっぱいに映るフロントグリル。SUVは車間距離を詰めたまま、何度もハイビームを点滅させている。
車の運転席では、サングラス姿の男が何か喚いているようだった。
『ん〜? そんな急いでるのかな?』
彼女は首を傾げ、とりあえず左車線へ寄る。すると車は爆音を響かせながら、一気に追い越していく。
「チンタラ走ってんじゃねぇぞ!!」
助手席に座る男が、窓を開けて怒鳴ってきたうえにスマホでこちらを撮影している。運転席の男も、それを見てケタケタ笑っていた。
『元気だねぇ。』
これで終わりかと思った。だが次の瞬間、SUVは彼女の前へ無理やり割り込んできた。
『わっ!?』
ギリギリの距離。さらに、
――キキィィィィィッ!!!
突然の急ブレーキ。
『わわわっ!?』
彼女は咄嗟にブレーキを踏み、どうにか回避する。しかし相手はそのまま蛇行運転を始め、右へ左へふらつきながらわざと進路を塞いでくる。
まるで「逃がさない」と言わんばかりに。
『…………。』
せっかくの楽しいドライブなのに。風は気持ちよかったし、新車はぴかぴかだったし、今日はすごくいい日だったのに。台無しである。
車の窓から、男がニヤニヤ笑いながら中指を立てる。
『……むぅ。』
それを見て、彼女は少し頬を膨らませた。
『ま、仕方ないよね。煽ってきたのは向こうだしね?変身――キラリン♡ドライブ!』
彼女は車内で変身し、魔法少女の本気衣装に身を包む。そして次の瞬間、彼女はアクセルを深く踏み込んだ。
『交通ルールを守れない子には〜、キラリン♡安全講習〜。』
オープンカーのエンジンが唸りを上げ、一気にSUVへと接近。
「は?!」
男がバックミラー越しに目を見開く。そして、
――ドゴンッ!!!
凄まじい衝撃音。
彼女の車は、SUVの後部へ勢いよく突っ込んだ。バランスを崩したSUVは激しく蛇行し、そのままガードレールへ。
――ガシャァァァァンッ!!!!
轟音が高速道路へ響き渡った。
『解決解決!』
彼女は満足そうに頷く。
『……あ、もしもし〜。私はキラリ!いずれ世界を救う魔法少女だよ♡ 田辺〜、高速で事故っちゃったからレッカー車お願い!……いやいや、私煽られた側だからね?……うん。そう、その辺。……救急車?あー救急車はいらないんじゃないかな。じゃ、よろしく〜。』
スマホをしまった彼女はハンドルを握り直し、再び爽やかな風の中へ走り去っていった。




