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無言聖域ーーデグーたちの記録  作者: おじさんヒーロー
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第二部71話 安息の地

第二部71話です。


今回は、二階の吹き抜けの部屋で話すセレンたちと、それを下で聞いている家族たちのお話です。


セレン、ガンザ、ディー。

少しずつ、この家の中に馴染んでいきます。


そして今回は、スピネルから見たセレンの過去も少し。

破壊神だった彼女が、今この場所で何を思うのか。


よろしくお願いします。

YouTube関連動画はこちら

https://youtube.com/shorts/juIuW-MQ9hA?si=D-SsYFgGe5VAg35p


二階の吹き抜けの部屋から、セレンたちの声が降ってくる。


セレンとガンザとディー。

三人は、普通に話しているつもりなのだろう。


けれど、この家は吹き抜けだ。

下にいる者たちには、会話がほとんど筒抜けだった。


「セレン、昔から面倒見がよかったの」


スピネルが、どこか誇らしげに言った。


「あいつら、ここが吹き抜けで会話が筒抜けだって、わかってんのかな?」


ジェットが天井を見上げる。


「気にしてないんじゃない? セレンだし」


黒姫が、当然のように返した。


「そうね。あんまり気にしない子だったから」


スピネルは嬉しそうに目を細める。


「全然、変わってない」


二階から、またセレンの声が聞こえた。

その声は、少し困ったようで、それでもどこか楽しそうだった。


「なんか楽しそう。わたしも入れてもらおうかな」


ココアが身を乗り出す。


「ココア、行っちゃダメ」


すかさずソラが止めた。


スピネルも、何か言いたそうに口を開きかける。


実は、行きたかった。


「そうね……ダメ、よね」


「行ったら、父さんにはわたしから言う」


玲桜が静かに言った。


スピネルは少しだけ頬をふくらませる。


「玲桜くん、意地悪」


そう言いながらも、スピネルの目は二階へ向いていた。


セレンの声が聞こえる。

ディーの低い声が、それに答える。


あの黒い狼。

最強種の、ブラックフェンリルだったかしら。


スピネルは、遠い昔を思い出す。


あの子を、ひとりで置いて来ざるを得なかった。


わたしのそばに置いておいたら、わたしに向けられた討伐隊に、セレンが向かっていってしまう。


あの子が壊れる。

わたしのせいで。


かわいい弟。

大切な子。


父も母も、わたしの力に気づくと、腫れ物に触るような態度を取るようになった。


でも、セレンだけは違った。


「ねえさま」


そう言って駆け寄ってきて、何も怖がらずに抱きついてくる。


愛しいもの。

セレンだけ、いればいい。


セレンだけが、わたしの命。


だから、知らなかった。


セレンの笑顔を守りたかっただけなのに、

だんだん、笑わなくなっていく。


わたしのそばに、置いておけない。


身を切られるほど辛いことって、本当にあるのだと、

その時、初めて知った。


だから、わたしの代わりになるものが必要だった。


ブラックフェンリルの親子。


ちょうどよかった。


あの時は、知らなかった。


セレンの大切なものを守りたかったら、

その周りも守らなければいけないのだと。


セレン以外のものなど、滅んでも構わないと思っていた。


母になって。

ここに来て。

ようやく気づいた。


ここは、安息の地。


この場所の全部が、

セレンにも、子どもたちにも、必要なのだわ。


二階から、セレンの声がまた降ってくる。


昔と同じ声。

でも、昔より少しだけ、柔らかい声。


スピネルはそっと笑った。


セレンは、変わっていない。

でも、セレンの周りには、もう何もないわけではない。


守るものがある。

帰る場所がある。

名前を呼ぶ者たちがいる。


そして、その中に、あの黒い狼もいる。


わたしの代わりに置いていったはずのものが、

今は、セレンの隣に立っている。


「……よかった」


誰にも聞こえないほど小さく、スピネルはつぶやいた。


それは、後悔であり、安堵であり、

ようやく少しだけ、自分を許してもいいのかもしれないと思えた声だった。

読んでくださり、ありがとうございます。


今回はスピネル視点の回でした。


昔のスピネルにとって、世界は「セレンがいるか、いないか」だけでした。

セレンだけを守れればいい。

セレン以外はどうなってもいい。


でも母になり、この家に来て、ようやく気づきます。


セレンを守るには、セレンが大切にしているものも守らなければいけないのだと。


二階から聞こえてくる何気ない会話。

それを聞きながら、スピネルが少しだけ過去と向き合う回になりました。


次回もよろしくお願いします。

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