第二部 第67話 本題破壊神の弟と黒き獣の誓い
今回はディー視点の外伝です。
本編ではまだ登場していませんが、セレンを守る黒き獣――ディーの過去と、セレンを守ると決めた理由の話です。
「いぬ」
セレンが、不思議そうに言った。
「おまえ、なんで姉さんを睨んでるの?」
ディーは、息を止めた。
睨んでいたつもりはない。
少なくとも、セレンに気づかれるほどではないと思っていた。
セレンの手が、何気なくディーの頭を撫でる。
「姉さん、悪い人じゃないぞ」
ディーは答えなかった。
悪い人ではない。
セレンにとっては、そうなのだろう。
だが、俺は見ていた。
すべてを。
あの恐ろしい女。
破壊神スピネルが、俺の家族を破壊していくのを。
親が崩れていくのを。
兄弟姉妹たちが壊れていくのを。
群れが、帰る場所が、意味を失っていくのを。
俺はただ、見ていることしかできなかった。
牙を剥いても無駄だった。
唸っても、届かなかった。
抵抗など、意味を持たなかった。
あれは、ただの人間ではない。
破壊そのものだ。
そして俺だけが、軽い傷を負ったまま残された。
なぜ、自分だけが残されたのか。
すぐに分かった。
黒い女は、俺を見下ろして言った。
「この世界は、もう終わり」
「おまえたちも、どうせ滅びる」
「だから、私の弟のために生きなさい」
「私の弟、セレンディバイトが生き延びれば」
「おまえも」
「その血筋も」
「途絶えることはない」
なんて恐ろしい女だ。
家族を壊しながら。
それを、救いのように言う。
その時の俺は、思った。
破壊神の弟。
どれほど恐ろしい存在なのか知らない。
だが、そいつを守れば、俺も、ブラックフェンリルの血も残るというのなら。
利用してやる。
従うふりをして。
生き延びてやる。
そう思っていた。
だが。
俺の前に現れた破壊神の弟は、俺を見て言った。
「いぬ?」
あまりにも間の抜けた声だった。
「こんなところで何してる?」
俺は、その子供を見た。
黒い髪。
赤い瞳。
細い手。
小さな体。
そして。
悲しい目をしていた。
なんて目をしてやがる。
おまえも、家族を失ったのか。
子供は俺の前にしゃがみ込んだ。
「俺は、なんの力もないから」
「おまえを助けられるかわからない」
「それでもよければ」
「一緒に来るか」
命令ではなかった。
従え、でもなかった。
守れ、でもなかった。
一緒に来るか。
すべてを奪われた俺に。
まだ、選ぶことを許した。
その瞬間、俺の中で何かが変わった。
破壊神と同じほどの力の気配がある。
だが、まるで違う。
真逆だ。
破壊神が、すべてを壊すものなら。
この子供は。
壊れたものに手を伸ばすものだ。
俺は、利用するつもりだった。
生き延びるために。
血を残すために。
破壊神の弟を利用してやるつもりだった。
だが、差し出された手を見た時。
その考えは消えた。
利用するのではない。
従うのでもない。
命じられたから守るのでもない。
俺が選ぶ。
この子を。
この悲しい目をした、邪気のない少年を。
破壊神に家族を奪われた俺が。
破壊神の弟に、生きる意味を与えられた。
だから俺は。
セレン。
おまえを守る。
あの女には、任せられない。
「いぬ?」
セレンの声で、ディーは現実に戻った。
セレンがまだ、ディーの頭を撫でている。
「聞いてる?」
ディーは小さく息を吐いた。
「犬ではない」
「そこ?」
スピネルが静かに笑った。
「本当に仲がいいのね」
ディーは、その笑みを見た。
美しい女。
恐ろしい女。
セレンを泣かせた女。
それでも、セレンが一番大切にしている女。
ディーは低く答えた。
「……睨んでなどいない」
セレンは首を傾げた。
「そうか?」
スピネルは、ただ微笑んでいた。
ディーは本編にはまだ登場していませんが、ショート動画では先に登場しています。
セレンとディーの雰囲気はこちらから。
https://youtube.com/shorts/eqkckMrhcQg?si=mELBtkEt4vHGOs7r
https://youtube.com/shorts/L7T9id7VxDk?si=NDx66uiyioG1tOYt
今回は、ディーがセレンを守ると決めた理由の話でした。




