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無言聖域ーーデグーたちの記録  作者: おじさんヒーロー
9/28

第9話 花を摘まないで

ここまで読んでいただきありがとうございます。


「帰れなくなる花園」という言葉は、これまで記録として何度か登場してきましたが、第9話ではその場所に取材側が実際に近づく場面になります。


三ページの取材から始まった記録は、


黒い娘

黒塗りの車

エルフの娘


と重なりながら、少しずつ同じ場所へ向かっています。


今回は、その中心にある花園に触れる回です。

「ここか」


記者は立ち止まった。


地図ではただの空き地だった。


立入禁止ではない。


柵もない。


表示もない。


だが。


空気が違った。


音が遠い。


風が浅い。


距離が深い。


記者は手帳を開く。


帰れなくなる花園


その文字を確認する。


そして。


一歩。


中に入った。



花が咲いていた。


見たことのない花だった。


色は淡い。


光は静かだった。


風は吹いていない。


それでも。


花だけが揺れていた。


記者は言った。


「普通じゃないな」



立て札があった。


古い板だった。


文字はかすれている。


だが読めた。


花を摘まないで


帰れなくなるよ


記者は手帳に書いた。


警告確認



そのときだった。


入口が遠くなった。


さっきより遠い。


距離が変わっている。


記者は振り向く。


「……近づいたな」


花園が。


近づいていた。



声がした。


「摘まないでください」


振り向く。


玲桜が立っていた。


いつの間にか。


すぐ後ろに。


記者が言う。


「関係者ですか」


玲桜は答えた。


「違います」


そして静かに言った。


「管理側です」



記者が聞いた。


「ここは何ですか」


玲桜は少し考えてから言った。


「選ばれる場所です」


記者が言う。


「誰に」


玲桜は答えた。


「花にです」



その瞬間だった。


一輪だけ。


花が揺れた。


風はない。


だが揺れた。


記者の足元で。


静かに揺れた。



玲桜が言った。


「呼ばれています」


記者は言った。


「誰が」


玲桜は答えた。


「あなたをです」



記者はしゃがみこんだ。


花を見る。


静かな花だった。


光のようだった。


触れられそうだった。


摘めそうだった。



玲桜が言った。


「摘むと戻れません」


記者は笑った。


「記事になりますね」


玲桜は少しだけ微笑んだ。


「もうなっています」



そのときだった。


別の声がした。


「まだ早いです」


記者が顔を上げる。


そこに立っていた。


スピネルだった。


静かだった。


優しかった。


だが。


強かった。



スピネルが言った。


「ここは選ばれてから来る場所です」


記者が聞いた。


「選ばれていませんか」


スピネルは答えた。


「近づいています」



その瞬間だった。


風が戻った。


音が戻った。


距離が戻った。


入口が近くなった。


花の揺れが止まった。



記者は立っていた。


花園の外に。


いつの間にか。


手帳を見る。


一行増えている。


花は選ぶ


記者は静かに言った。


「……三ページじゃ足りないな」

第9話を読んでいただきありがとうございました。


花園は「誰でも入れる場所」ではなく、「選ばれる場所」として描いています。


これまで記録されてきた出来事と花園の関係が、少しずつ形になり始めました。


次回は、花園とエルフの娘との関係や、境界がどのように重なっていくのかが見えてきます。


続きを読んでいただけたらうれしいです。

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