↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無言聖域ーーデグーたちの記録  作者: おじさんヒーロー
PR
9/100

第9話 花を摘まないで

ここまで読んでいただきありがとうございます。


「帰れなくなる花園」という言葉は、これまで記録として何度か登場してきましたが、第9話ではその場所に取材側が実際に近づく場面になります。


三ページの取材から始まった記録は、


黒い娘

黒塗りの車

エルフの娘


と重なりながら、少しずつ同じ場所へ向かっています。


今回は、その中心にある花園に触れる回です。

「ここか」


記者は立ち止まった。


地図ではただの空き地だった。


立入禁止ではない。


柵もない。


表示もない。


だが。


空気が違った。


音が遠い。


風が浅い。


距離が深い。


記者は手帳を開く。


帰れなくなる花園


その文字を確認する。


そして。


一歩。


中に入った。


⸻


花が咲いていた。


見たことのない花だった。


色は淡い。


光は静かだった。


風は吹いていない。


それでも。


花だけが揺れていた。


記者は言った。


「普通じゃないな」


⸻


立て札があった。


古い板だった。


文字はかすれている。


だが読めた。


花を摘まないで


帰れなくなるよ


記者は手帳に書いた。


警告確認


⸻


そのときだった。


入口が遠くなった。


さっきより遠い。


距離が変わっている。


記者は振り向く。


「……近づいたな」


花園が。


近づいていた。


⸻


声がした。


「摘まないでください」


振り向く。


玲桜が立っていた。


いつの間にか。


すぐ後ろに。


記者が言う。


「関係者ですか」


玲桜は答えた。


「違います」


そして静かに言った。


「管理側です」


⸻


記者が聞いた。


「ここは何ですか」


玲桜は少し考えてから言った。


「選ばれる場所です」


記者が言う。


「誰に」


玲桜は答えた。


「花にです」


⸻


その瞬間だった。


一輪だけ。


花が揺れた。


風はない。


だが揺れた。


記者の足元で。


静かに揺れた。


⸻


玲桜が言った。


「呼ばれています」


記者は言った。


「誰が」


玲桜は答えた。


「あなたをです」


⸻


記者はしゃがみこんだ。


花を見る。


静かな花だった。


光のようだった。


触れられそうだった。


摘めそうだった。


⸻


玲桜が言った。


「摘むと戻れません」


記者は笑った。


「記事になりますね」


玲桜は少しだけ微笑んだ。


「もうなっています」


⸻


そのときだった。


別の声がした。


「まだ早いです」


記者が顔を上げる。


そこに立っていた。


スピネルだった。


静かだった。


優しかった。


だが。


強かった。


⸻


スピネルが言った。


「ここは選ばれてから来る場所です」


記者が聞いた。


「選ばれていませんか」


スピネルは答えた。


「近づいています」


⸻


その瞬間だった。


風が戻った。


音が戻った。


距離が戻った。


入口が近くなった。


花の揺れが止まった。


⸻


記者は立っていた。


花園の外に。


いつの間にか。


手帳を見る。


一行増えている。


花は選ぶ


記者は静かに言った。


「……三ページじゃ足りないな」

第9話を読んでいただきありがとうございました。


花園は「誰でも入れる場所」ではなく、「選ばれる場所」として描いています。


これまで記録されてきた出来事と花園の関係が、少しずつ形になり始めました。


次回は、花園とエルフの娘との関係や、境界がどのように重なっていくのかが見えてきます。


続きを読んでいただけたらうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。