第8話 記録される側
ここまで読んでいただきありがとうございます。
三ページの取材から始まった記録は、少しずつ形を持ち始めています。
帰れなくなる花園。
黒い娘。
黒塗りの車。
エルフの娘。
それぞれ別の出来事のように見えていたものが、同じ場所を中心に重なり始めました。
第8話では、「記録する側」と「記録される側」の距離がさらに近づく場面になります。
静かですが、境界が一段階動く回です。
「……見えた」
記者はもう一度つぶやいた。
校門の前だった。
さっきまで確かにあった。
境界が。
だが今はもうない。
人が歩いている。
車が通っている。
普通の昼だった。
それでも。
記録だけが残っている。
手帳を見る。
境界確認
観測成立
記者は静かに言った。
「書けるな」
⸻
編集部。
編集長が顔を上げた。
「どうだった」
記者は答える。
「三ページじゃ足りません」
編集長が言う。
「やめとけ」
記者は笑った。
「無理ですね」
⸻
西署。
早見が資料を見ていた。
山城が言う。
「また増えた」
机の上には同じ単語が並んでいる。
花園
黒塗りの車
未帰還
境界
そして。
新しく追加された一行。
記録者
早見が言う。
「誰だこれ書いたの」
山城が答える。
「雑誌U」
⸻
そのころ。
校舎裏。
玲桜が立っていた。
静かだった。
だが。
少しだけ違っていた。
「認識されました」
ソラが聞く。
「どこまで?」
玲桜は答えた。
「記録者です」
黒姫が言う。
「止める?」
玲桜は首を振った。
「止めません」
⸻
春の園。
世界樹の葉が揺れた。
風はない。
それでも揺れた。
スピネルが言った。
「書かれている」
月が答える。
「読まれている」
スピネルは静かに言った。
「近い」
⸻
編集部。
記者が原稿を書く。
帰れなくなる花園
黒い娘
黒塗りの車
エルフの娘
そして。
新しい見出しを書く。
境界
ペンが止まる。
その瞬間だった。
紙の上の文字が。
わずかに揺れた。
記者が顔を上げる。
「……?」
誰もいない。
だが。
確かにいた。
見られている。
⸻
校舎裏。
玲桜が静かに言った。
「確認しました」
ソラが聞く。
「なにを?」
玲桜は答えた。
「読まれています」
黒姫が言う。
「どこまで?」
玲桜は静かに答えた。
「三ページ以上です」
⸻
西署。
早見が言った。
「普通の記事じゃないな」
山城が答える。
「ああ」
そして静かに言った。
「普通の場所でもない」
⸻
編集部。
記者が最後の一行を書く。
観測成立
その瞬間だった。
窓の外の空気が揺れた。
風が止まった。
音が消えた。
そして。
誰かの声がした。
「そこまでです」
記者が振り向く。
誰もいない。
だが。
確かに聞こえた。
⸻
校舎裏。
玲桜が空を見る。
「境界が重なりました」
黒姫が言う。
「始まる?」
玲桜は答えた。
「はい」
そして静かに言った。
「次は接触です」
第8話を読んでいただきありがとうございました。
これまで観測されていた側だった場所に対して、記録する側がはっきりと認識され始める段階に入りました。
三ページの記事として始まった出来事が、少しずつ現実の出来事と重なっていきます。
次回は、帰れなくなる花園へさらに近づく動きが出てきます。
続きを楽しんでいただけたらうれしいです。




