第10話 花園とエルフの娘
ここまで読んでいただきありがとうございます。
これまで記録として語られてきた「帰れなくなる花園」と、「エルフの娘」が、第10話で同じ場所として重なります。
三ページの取材から始まった出来事は、
黒い娘
黒塗りの車
エルフの娘
花園
と少しずつ一本の流れになってきました。
今回は、その花園が「誰を選ぶ場所なのか」が見えてくる回になります。
「……ここ?」
未唯が立ち止まった。
花園の入口だった。
柵はない。
門もない。
だが。
入る場所は分かる。
最初から知っていたように。
未唯は言った。
「ここ知ってる」
たすくが聞く。
「来たことあるのか」
未唯は首を振った。
「ううん」
そして静かに言った。
「でも知ってる」
⸻
花が咲いていた。
淡い色の花だった。
静かな光だった。
風はない。
それでも。
花だけが揺れていた。
未唯の前で。
⸻
玲桜が言った。
「呼ばれています」
たすくが聞く。
「誰に」
玲桜は答えた。
「花園にです」
⸻
未唯が一歩進む。
その瞬間だった。
花が揺れた。
一輪ではない。
全部だった。
花園全体が。
未唯に向かって。
揺れた。
⸻
たすくが言った。
「……さっきと違う」
玲桜はうなずいた。
「はい」
そして言った。
「選ばれています」
⸻
未唯が花を見る。
静かな花だった。
優しい色だった。
懐かしい色だった。
未唯が言った。
「帰れる」
たすくが聞く。
「どこに」
未唯は答えた。
「向こうに」
⸻
そのときだった。
花園の奥で。
光が揺れた。
道ができた。
さっきまではなかった道だった。
玲桜が言った。
「通路です」
⸻
たすくが言った。
「入っていいのか」
玲桜は答えた。
「未唯は大丈夫です」
少しだけ間を置いて続けた。
「呼ばれていますから」
⸻
そのときだった。
声がした。
「まだ早いです」
スピネルだった。
静かに立っていた。
花園の奥に。
⸻
未唯が言った。
「知ってる」
たすくが驚く。
「え?」
未唯は言った。
「会ったことある」
⸻
スピネルは優しく言った。
「覚えていますか」
未唯はうなずいた。
「少しだけ」
⸻
花が揺れた。
風はない。
それでも揺れた。
未唯の周りだけ。
円を描くように。
揺れていた。
⸻
玲桜が静かに言った。
「エルフは通路に近い存在です」
たすくが聞いた。
「どういう意味だ」
玲桜は答えた。
「境界の外と内を知っています」
⸻
未唯が花を見る。
そして静かに言った。
「ここ帰り道」
たすくが言う。
「家か」
未唯は首を振った。
「もう一つの家」
⸻
その瞬間だった。
花園の奥の通路が。
少しだけ開いた。
光が揺れた。
風が動いた。
距離が変わった。
⸻
玲桜が言った。
「始まりました」
スピネルが静かに言った。
「思い出します」
未唯が言った。
「うん」
そして小さく続けた。
「もうすぐ」
第10話を読んでいただきありがとうございました。
花園は誰でも入れる場所ではなく、「選ばれる場所」として描いています。
そしてエルフの娘である未唯が、その境界に近い存在であることが少しずつ見えてきました。
ここから先は、通路の向こう側や未唯の記憶、そして家族との関係が関わってきます。
続きを読んでいただけたらうれしいです。




