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無言聖域ーーデグーたちの記録  作者: おじさんヒーロー
11/28

第11話 兄の名前

ここまで読んでいただきありがとうございます。


これまで少しずつ語られてきた花園と通路の関係ですが、第11話ではエルフの娘・未唯の記憶が動き始めます。


帰れなくなる花園は、ただの場所ではなく「帰る道」にもつながっています。


今回は、その通路の向こう側にいる存在が見え始める回になります。

「……ここ」


未唯が立ち止まった。


花園の奥だった。


さっきまでなかった道が。


まだ残っていた。


光が揺れていた。


静かな通路だった。



未唯が言った。


「帰れる」


たすくが聞く。


「どこに」


未唯は答えた。


「向こう」



玲桜が言った。


「思い出しています」


スピネルは静かにうなずいた。


「はい」



未唯が通路を見る。


懐かしい色だった。


懐かしい光だった。


懐かしい距離だった。


未唯が言った。


「逃げた」


たすくが聞く。


「誰が」


未唯は答えた。


「わたし」



風が揺れた。


花が揺れた。


距離が少し変わった。


通路が少し近づいた。



未唯が言った。


「追われてた」


玲桜が静かに言った。


「覚えていますね」


未唯はうなずいた。


「うん」



未唯が続けた。


「お母さんが」


止まった。


言葉が止まった。



スピネルが言った。


「大丈夫です」


未唯がうなずく。


そして続けた。


「逃げてって言った」



通路の奥で。


光が揺れた。


誰かがいた。


遠くに。


確かにいた。



未唯が言った。


「お兄ちゃん」


たすくが止まる。


「え?」



未唯が通路の奥を見る。


確信して言った。


「いた」


玲桜が静かに言った。


「守りました」



未唯が続けた。


「置いていった」


スピネルが言った。


「違います」


未唯が顔を上げる。



スピネルは優しく言った。


「守ったのです」



通路の奥で。


光が揺れた。


距離が近づいた。


影が少しだけ見えた。



未唯が言った。


「名前」


止まった。


言葉が止まった。


そして。


静かに言った。


「……思い出す」



玲桜が言った。


「急がなくていいです」


未唯はうなずいた。



そのときだった。


通路が少し開いた。


風が流れた。


花が揺れた。


距離が変わった。



未唯が言った。


「来てる」


たすくが聞く。


「誰が」


未唯は答えた。


「お兄ちゃん」



スピネルが静かに言った。


「はい」


そして続けた。


「近づいています」



玲桜が空を見る。


「通路が安定しています」


黒姫が言う。


「珍しい」


玲桜は答えた。


「呼ばれていますから」



未唯が通路を見る。


そして小さく言った。


「もうすぐ」

第11話を読んでいただきありがとうございました。


未唯の記憶の中にあった「逃げた理由」と「守った存在」が少しずつ形になってきました。


花園は境界の近くにある場所であり、通路は人を選びます。


そして未唯は、その通路に近い存在として描いています。


次回は、通路の向こう側からの動きがさらに近づいてきます。


続きを読んでいただけたらうれしいです。

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