第11話 兄の名前
ここまで読んでいただきありがとうございます。
これまで少しずつ語られてきた花園と通路の関係ですが、第11話ではエルフの娘・未唯の記憶が動き始めます。
帰れなくなる花園は、ただの場所ではなく「帰る道」にもつながっています。
今回は、その通路の向こう側にいる存在が見え始める回になります。
「……ここ」
未唯が立ち止まった。
花園の奥だった。
さっきまでなかった道が。
まだ残っていた。
光が揺れていた。
静かな通路だった。
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未唯が言った。
「帰れる」
たすくが聞く。
「どこに」
未唯は答えた。
「向こう」
⸻
玲桜が言った。
「思い出しています」
スピネルは静かにうなずいた。
「はい」
⸻
未唯が通路を見る。
懐かしい色だった。
懐かしい光だった。
懐かしい距離だった。
未唯が言った。
「逃げた」
たすくが聞く。
「誰が」
未唯は答えた。
「わたし」
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風が揺れた。
花が揺れた。
距離が少し変わった。
通路が少し近づいた。
⸻
未唯が言った。
「追われてた」
玲桜が静かに言った。
「覚えていますね」
未唯はうなずいた。
「うん」
⸻
未唯が続けた。
「お母さんが」
止まった。
言葉が止まった。
⸻
スピネルが言った。
「大丈夫です」
未唯がうなずく。
そして続けた。
「逃げてって言った」
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通路の奥で。
光が揺れた。
誰かがいた。
遠くに。
確かにいた。
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未唯が言った。
「お兄ちゃん」
たすくが止まる。
「え?」
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未唯が通路の奥を見る。
確信して言った。
「いた」
玲桜が静かに言った。
「守りました」
⸻
未唯が続けた。
「置いていった」
スピネルが言った。
「違います」
未唯が顔を上げる。
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スピネルは優しく言った。
「守ったのです」
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通路の奥で。
光が揺れた。
距離が近づいた。
影が少しだけ見えた。
⸻
未唯が言った。
「名前」
止まった。
言葉が止まった。
そして。
静かに言った。
「……思い出す」
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玲桜が言った。
「急がなくていいです」
未唯はうなずいた。
⸻
そのときだった。
通路が少し開いた。
風が流れた。
花が揺れた。
距離が変わった。
⸻
未唯が言った。
「来てる」
たすくが聞く。
「誰が」
未唯は答えた。
「お兄ちゃん」
⸻
スピネルが静かに言った。
「はい」
そして続けた。
「近づいています」
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玲桜が空を見る。
「通路が安定しています」
黒姫が言う。
「珍しい」
玲桜は答えた。
「呼ばれていますから」
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未唯が通路を見る。
そして小さく言った。
「もうすぐ」
第11話を読んでいただきありがとうございました。
未唯の記憶の中にあった「逃げた理由」と「守った存在」が少しずつ形になってきました。
花園は境界の近くにある場所であり、通路は人を選びます。
そして未唯は、その通路に近い存在として描いています。
次回は、通路の向こう側からの動きがさらに近づいてきます。
続きを読んでいただけたらうれしいです。




