第12話 開いたのはだれ
ここまで読んでいただきありがとうございます。
花園と通路については、これまで少しずつ断片として語られてきましたが、第12話ではその中心にある出来事が動き始めます。
エルフの娘である未唯が、なぜ通路に近い存在なのか。
そして、なぜ守られていたのか。
今回は、その理由に触れていく回になります。
通路が揺れていた。
花園の奥だった。
光が静かに流れていた。
さっきまで閉じていた道が。
まだ残っている。
未唯は立ち止まった。
「……ここ」
懐かしかった。
見たことがある。
来たことがある。
でも。
覚えていなかった。
⸻
たすくが聞いた。
「思い出したのか」
未唯は首を振った。
「まだ」
そして言った。
「でも」
少しだけ間を置いた。
「知ってる」
⸻
玲桜が静かに言った。
「通路は覚えています」
未唯が通路を見る。
光が揺れている。
優しい光だった。
遠い光だった。
帰れそうな光だった。
⸻
未唯が言った。
「逃げた」
たすくが聞いた。
「ここから?」
未唯はうなずいた。
「うん」
⸻
花が揺れた。
風はない。
それでも揺れた。
未唯の周りだけ。
円を描くように。
揺れていた。
⸻
未唯が言った。
「お母さんが」
止まった。
言葉が止まった。
そして。
静かに続けた。
「逃げてって言った」
⸻
スピネルがうなずいた。
「はい」
優しい声だった。
知っている声だった。
⸻
未唯が続けた。
「お兄ちゃんが」
通路を見る。
光が揺れる。
距離が近づく。
誰かがいた。
奥に。
確かにいた。
⸻
未唯が言った。
「戻っていった」
たすくが言った。
「戻った?」
未唯はうなずいた。
「うん」
そして言った。
「逃げろって」
⸻
その瞬間だった。
通路が強く揺れた。
光が広がった。
距離が変わった。
花が一斉に揺れた。
⸻
玲桜が静かに言った。
「反応しています」
黒姫が言った。
「通路が?」
玲桜は答えた。
「未唯がです」
⸻
未唯が通路を見る。
そして。
静かに言った。
「違う」
たすくが聞く。
「なにが」
未唯は答えた。
「通路」
そして。
小さく続けた。
「開いた」
⸻
玲桜が言った。
「はい」
未唯が言った。
「お母さんじゃない」
スピネルがうなずいた。
「はい」
⸻
未唯が言った。
「お兄ちゃんでもない」
花が揺れた。
光が強くなった。
距離が近づいた。
⸻
未唯が言った。
「わたし」
静かだった。
確信だった。
迷いはなかった。
⸻
その瞬間だった。
通路が大きく開いた。
光が広がった。
風が流れた。
花が揺れた。
距離が変わった。
⸻
玲桜が静かに言った。
「鍵です」
たすくが聞いた。
「鍵?」
玲桜は答えた。
「未唯がです」
⸻
スピネルが言った。
「思い出しましたね」
未唯はうなずいた。
「うん」
そして。
通路を見る。
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遠くで。
声がした。
「未唯」
未唯が顔を上げた。
震えた。
でも。
笑った。
⸻
未唯が言った。
「……お兄ちゃん」
第12話を読んでいただきありがとうございました。
これまで「誰かが開いた」と思われていた通路が、未唯自身によって開かれていたことが見えてきました。
花園は選ぶ場所であり、通路は人を選びます。
未唯がその鍵であることが明らかになったことで、物語は次の段階に進みます。
次回は通路の向こう側にいる存在がさらに近づいてきます。
続きを読んでいただけたらうれしいです。




