第二部 第52話 腐敗神、降臨
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回から、少し変わった視点のお話になります。
舞台は、ごく普通のアパート。
大学へ行かず、漫画を読んで暮らしている青年。
そして――
突然現れる、“腐敗神ガンザ”。
これまで居酒屋未唯で暴れていたガンザですが、今回はかなり別方向に暴れます。
ある意味、外伝のような空気もある回ですが、無言聖域らしい「境界」の話でもあります。
よろしくお願いいたします。
作品の設定や登場人物については、作者ブログ「DEGUだよ。」でも少しずつ整理しています。
https://applebrother.wordpress.com/
大学へは行ってない。
⸻
ずっと。
部屋に篭っていた。
⸻
本当は。
大学なんて行きたくなかった。
⸻
だから。
ちゃんと言った。
⸻
「行きたくない」
⸻
でも。
聞いてはもらえなかった。
⸻
「また漫画!?」
⸻
母の声。
⸻
「大学に行きなさい!!」
⸻
「学費だって出してあげてるのに!!」
⸻
「何が不満なの!?」
⸻
うるさい。
⸻
そう思った。
⸻
だから。
家にも帰りたくなかった。
⸻
ほとんど家に寄り付かない父へ。
⸻
鎌をかけた。
⸻
「浮気のことバラさないから」
⸻
「アパート借りる資金と保証人になって」
⸻
すると。
⸻
二つ返事だった。
⸻
「いいぞ」
⸻
沈黙。
⸻
……ほんとに浮気してたんだ。
⸻
ちょっと引いた。
⸻
だが。
アパート暮らしは快適だった。
⸻
誰にも邪魔されない。
⸻
何もしなくても。
説教されない。
⸻
最高だった。
⸻
漫画。
ゲーム。
動画。
⸻
好きなものだけ。
⸻
静かな部屋。
⸻
そして。
ある日。
⸻
漫画を読みながら。
ウトウトしていた。
⸻
そのまま。
眠る。
⸻
夢。
⸻
……のはずだった。
⸻
『我は腐敗神ガンザ!!』
⸻
目が開く。
⸻
「っ!!?」
⸻
飛び起きた。
⸻
部屋。
⸻
真夜中。
⸻
暗い。
⸻
心臓がバクバクしている。
⸻
「な、なんだ今の……」
⸻
リアルすぎる夢。
⸻
その瞬間。
⸻
『我を敬え!!奉れ!!』
⸻
「うわぁぁっ!!?」
⸻
声。
⸻
今度は。
確実に。
⸻
部屋の中。
⸻
恐る恐る。
視線を向ける。
⸻
机。
⸻
漫画の山。
⸻
その上。
⸻
モルモット。
⸻
「…………は?」
⸻
ふんぞり返っていた。
⸻
黒い。
妙に偉そうな。
モルモット。
⸻
「やっと起きたか愚か者!!」
⸻
「我を放置するとは何事だ!!」
⸻
完全に喋っていた。
⸻
沈黙。
⸻
「…………」
⸻
「…………」
⸻
モルモットが鼻を鳴らす。
⸻
「我は腐敗神ガンザ!!」
⸻
「神である!!」
⸻
「崇めよ!!」
⸻
「敬え!!」
⸻
「奉れ!!」
⸻
部屋の隅。
⸻
コンビニ袋が倒れた。
⸻
現実だった。
⸻
「…………」
⸻
「夢じゃないの?」
⸻
ガンザが怒る。
⸻
「夢ではないわ!!」
⸻
「というか」
⸻
「腹減った!!」
⸻
「なんかよこせ!!」
⸻
沈黙。
⸻
青年は。
数秒考えた。
⸻
そして。
⸻
「……漫画の締切前なのに」
⸻
現実逃避みたいに呟いた。
ガンザは、ふんっと鼻を鳴らした。
「誤用ではない!」
「腐敗神たる我が、自らお前の前へ来てやったのだ!感謝せよ!」
沈黙。
青年は、机の上のモルモットを見る。
黒い。
小さい。
偉そう。
どう見てもモルモット。
だが喋っている。
しかも、妙に態度がでかい。
「……いや」
少し間。
「やっぱ夢では?」
ガンザが怒る。
「夢ではないわ!!」
「現実だ!!」
「もっと驚かんか!!」
「普通、神を見たら跪くものだぞ!!」
青年は真顔だった。
「モルモットにしか見えないし」
「ぬぅぅぅっ!!」
ガンザが机を叩く。
ぺちっ。
軽い音。
威厳がない。
青年はしばらく考えたあと、恐る恐る尋ねた。
「それで……」
「何か御用ですか?」
ガンザ。
止まる。
「…………」
「…………」
「…………忘れた」
「は?」
「いや、なんか重要な理由があった気がするのだが!」
「来る途中で腹が減ってだな!」
「コンビニの匂いとか色々あってだな!」
「途中からそっちに気を取られてしまった!」
青年は頭を抱えた。
「帰ってくれ……」
「……って言うか」
⸻
青年は止まる。
⸻
「コンビニ知ってるんだ」
⸻
ガンザが胸を張る。
⸻
「当然だ!」
⸻
「最近の人間界は面白いぞ!」
⸻
「24時間食料が手に入る!!」
⸻
「神の時代にはなかった文化だ!!」
⸻
なぜか妙に感動していた。
⸻
青年はじっと見る。
⸻
「……AIロボ?」
⸻
「違うわ!!」
⸻
「神だ!!」
⸻
「腐敗神ガンザ!!」
⸻
沈黙。
⸻
その瞬間。
⸻
青年の動きが止まる。
⸻
「……ガンザ?」
⸻
聞いたことがある。
⸻
最近。
⸻
どこかで。
⸻
「……あ」
⸻
思い出した。
⸻
床に積まれた雑誌の山を漁る。
⸻
「あった!」
⸻
取り出したのは。
⸻
『ウー』
⸻
今月号。
⸻
無言聖域特集。
⸻
ドラゴンのイラスト依頼を受けて描いた号だった。
⸻
出版社から送られてきた見本誌。
⸻
ページをめくる。
⸻
そして。
⸻
「あっ」
⸻
「これだ!!」
⸻
『土産物屋おうり!!』
⸻
そこに。
⸻
ふんぞり返る。
黒モルモット。
⸻
『看板ペット』
⸻
『腐敗神ガンザ』
⸻
完全一致。
⸻
ガンザが得意げになる。
⸻
「知っていたか!!」
⸻
「流石に我自らが守る場所であるからな!!」
⸻
ふんぞり返っていた。
⸻
青年。
⸻
無言。
⸻
数秒後。
⸻
「……西署までなら送るけど?」
⸻
ガンザが即答する。
⸻
「我は用があるのだ!!」
⸻
パンパンと前足で机を叩く。
⸻
威厳ゼロ。
⸻
青年は嫌な予感しかしなかった。
⸻
「……聞かない方がいいよな」
⸻
ガンザ。
⸻
ニヤリ。
⸻
「気になるであろう?」
⸻
「気になるよな?」
⸻
ぐいっと顔を近づける。
⸻
「我の用が何か!!」
⸻
青年。
⸻
少し迷う。
⸻
だが。
⸻
気になってしまった。
⸻
「……何?」
⸻
ガンザ。
⸻
胸を張る。
⸻
「漫画を描け!!」
⸻
沈黙。
⸻
「……は?」
⸻
「我を主人公にした漫画だ!!」
⸻
「腐敗神ガンザ冒険譚!!」
⸻
「全世界で大ヒット間違いなし!!」
⸻
「映画化!!」
⸻
「アニメ化!!」
⸻
「ぬいぐるみ化!!」
⸻
「神グッズ大量展開!!」
⸻
青年。
⸻
真顔。
⸻
「帰れ」
第二部第52話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、かなり久しぶりに“普通の人間側”から始まる回になりました。
大学へ行きたくない。
家にも居場所がない。
好きなものだけに囲まれて生きていたい。
今回の主人公は、ある意味かなり現代的な人物です。
そして、そんな部屋に突然現れる腐敗神ガンザ。
完全にホラーの導入みたいですが、本人(本神?)はわりと普通に腹を減らしています。
また今回、
「夢だと思ったら現実だった」
という部分も重要です。
無言聖域では、“境界”が曖昧です。
夢。
現実。
異世界。
通路。
気づけば、普通の生活のすぐ隣にあります。
そして、ガンザが何故この青年の前へ現れたのか。
そこも、少しずつ描かれていくかもしれません。
なお、「土産物屋おうり」と看板ペット(?)ガンザについては、外伝「看板ペット誕生」でも描かれています。
合わせて読んでいただけると嬉しいです。
世界観や登場人物については、作者ブログ「DEGUだよ。」でも少しずつ整理していますので、よろしければご覧ください。
https://applebrother.wordpress.com/




