第二部 第46話 おうり
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
長儒会との会談が終わり、ようやく静かになるかと思われた矢先。
今度は、“境界”から新たな存在が現れます。
今回登場する「おうり」は、これまでの帰還者とも、聖域の住民とも少し違う存在です。
そして玲桜だけは、ずっとその気配に気づいていました。
無言聖域という作品では、
「呼ばれる」
「帰る場所を失う」
ということが、とても大きな意味を持っています。
今回もまた、“家”の話なのかもしれません。
作品の設定や登場人物については、作者ブログ「DEGUだよ。」でも少しずつ整理しています。
https://applebrother.wordpress.com/
帰り道。
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黒塗りの車列は。
静かに高速を走っていた。
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長儒会との会談は終わった。
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約束も交わされた。
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未来も変わった。
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だが。
玲桜はまだ静かだった。
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クルミが小さく聞く。
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「どうしたんだい?」
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玲桜は少し黙る。
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そして。
小さく言った。
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「……まだ」
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「終わっていません」
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空気が少し変わる。
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ココアが首を傾げる。
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「なにが?」
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玲桜は窓の外を見ていた。
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「呼ばれています」
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その瞬間。
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ライが小さく顔を上げた。
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ハクも静かになる。
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ジェットが小さく言った。
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「……誰だ」
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玲桜は少し目を細める。
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「おうり」
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沈黙。
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クルミが止まる。
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「……おうり?」
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玲桜は静かにうなずいた。
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「境界付近で」
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「ずっと」
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「泣いています」
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空気が静かになる。
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ココアが小さく言う。
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「子供?」
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玲桜は少し考えた。
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「……半分」
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「違います」
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山城が頭を抱える。
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「また始まった……」
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吉見がため息をつく。
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「その説明でわかるやついねぇよ」
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その瞬間だった。
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ピシ……
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車窓の外。
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空間にヒビが入る。
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黒スーツ達が悲鳴を上げる。
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「うわぁっ!?」
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そこから。
小さな手が出てきた。
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白い。
細い手。
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そして。
ゆっくり。
子供が現れる。
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銀色の髪。
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赤い瞳。
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だが。
ライとも小雪とも違う。
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もっと不安定。
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輪郭が少し揺れている。
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存在が。
定まっていない。
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子供は。
静かに玲桜を見る。
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そして。
小さく言った。
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「……いた」
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玲桜は静かだった。
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「おうり」
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その瞬間。
子供の顔が少し安心する。
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だが。
周囲の空気が歪む。
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黒い影。
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通路の残滓みたいなものが。
おうりの周囲を漂っている。
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ハクが小さくつぶやく。
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「……境界に長く居すぎたか」
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ジェットも真顔になる。
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「やべぇな」
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クルミは静かに車を降りた。
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ココア達が止める。
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「おとうさん!」
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だが。
クルミは困ったように笑う。
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「大丈夫」
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そして。
おうりの前へしゃがみこんだ。
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おうりは少し震えていた。
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クルミが静かに聞く。
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「帰る場所」
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「なくなっちゃったかい?」
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その瞬間。
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おうりの瞳から。
涙が落ちた。
第二部第46話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、「おうり」という新たな存在が登場しました。
銀色の髪。
赤い瞳。
そして、“存在が安定していない”子供。
ライや小雪とも似ていますが、どこか違う。
特に今回重要なのは、
「境界に長く居すぎた」
というハクの言葉です。
無言聖域では、“通路”や“境界”そのものが、生き物へ大きな影響を与えます。
そして、おうりはその影響を強く受けた存在でもあります。
また今回、クルミが最初に聞いた言葉は、
「何者か」
ではなく、
「帰る場所、なくなっちゃったかい?」
でした。
クルミらしい場面だったと思います。
強さではなく、まず“居場所”を気にする。
だからこそ、多くの存在が聖域へ集まるのかもしれません。
世界観や登場人物については、作者ブログ「DEGUだよ。」でも少しずつ整理していますので、よろしければご覧ください。
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