第二部 第45話 釘は何本でも
帰りの車内。
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空気は。
思ったより穏やかだった。
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長儒会は約束した。
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もう。
聖域へ手を出さないと。
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だから。
終わった。
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……はずだった。
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ジェットが肩をすくめる。
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「どうせ」
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「なんもできやしないさ」
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山城が嫌な顔をする。
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「その言い方やめろ」
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ジェットは普通に続けた。
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「俺たちは」
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「悪意には敏感だからな」
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空気が少し静かになる。
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玲桜も小さくうなずく。
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「クルミ父さんが死ななくても」
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静かな声。
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「悪意を感じただけで」
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「さっきの未来に変えることなんて」
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少し間。
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「のぼる一人でもできそうだな」
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沈黙。
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吉見が止まる。
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「……は?」
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山城が聞き返す。
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「今なんて?」
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玲桜は静かだった。
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「月父さんなら」
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「一瞬です」
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さらに空気が凍る。
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ココアが楽しそうに笑う。
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「スピネルかあさんなら」
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「国ごと破滅だね♪」
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黒スーツ達が真っ青になる。
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長儒会の老人達は。
完全に崩れ落ちていた。
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「やめてくれ!!」
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「わかった!!」
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「もう!!」
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「本当に何もしないでくれ!!」
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悲鳴みたいだった。
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その瞬間。
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ふっ。
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玲桜が少し笑った。
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クルミがそれを見る。
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「あれ」
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困ったように笑う。
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「わざとだね?」
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玲桜は静かに視線を逸らす。
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「……釘は」
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少し間。
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「何本でも刺しておかないと」
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吉見が頭を抱える。
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「怖ぇよ管理者」
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ココアが笑う。
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「だよねー」
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だが。
クルミは穏やかだった。
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「でも」
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「今回は本当に簡単に済んでよかったね」
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その瞬間。
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全員が止まる。
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クルミは普通に続ける。
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「ぼくが来て正解だったろ?」
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沈黙。
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吉見。
山城。
黒スーツ。
長儒会。
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全員。
同じことを思った。
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「……え」
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「本気?」
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クルミは首を傾げる。
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「?」
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空気が止まる。
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ココアが真顔になる。
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「おとうさん」
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「もう聖域出ないで」
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ももも即答。
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「出ちゃだめ!」
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コスピもうなずく。
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「危険」
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あいは無言でさらに抱きつく。
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ハクが深くうなずいた。
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「本当にそうじゃ」
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ジェットが苦笑する。
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「クルミ父さん」
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「自分の危険度わかってないんだよなぁ」
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玲桜だけが静かだった。
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そして。
小さくつぶやく。
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「だから」
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「聖域の中心なんです」
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その瞬間。
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遠く。
世界樹が静かに揺れた。
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まるで。
“帰ってきて”
と言うみたいに。




