第二部 第40話 娘のようなもの
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回の第40話では、クルミと三人娘――もも、コスピ、あいの関係が、少し静かな形で描かれます。
聖域の中心。
最強格。
そう呼ばれる存在達であっても、そこにあるのは「家族」の空気です。
そして長儒会もまた、クルミという存在を通して、“聖域”の本当の姿を少しずつ理解していきます。
今回は大きな戦いではありません。
ですが、「何を守ろうとしているのか」が見える回になっています。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
https://applebrother.wordpress.com/
第二部 第40話 娘のようなもの
静かだった。
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長儒会はもう。
先ほどまでの余裕を失っている。
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誰も軽口を叩かない。
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ライが見せた未来。
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あれが。
“可能性”でしかないことが。
逆に恐ろしかった。
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クルミは小さく息を吐く。
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そして。
静かに言った。
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「……そっとしておいてほしい」
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空気が止まる。
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クルミは穏やかな声のまま続ける。
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「ぼくたちは」
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「ただ」
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「静かに暮らしたいだけ」
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それは。
願いだった。
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支配でもない。
侵略でもない。
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ただ。
静かに。
家族と。
暮らしたい。
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その瞬間。
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ももが。
クルミの右腕へ抱きつく。
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「クルミ❤️」
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コスピも当然みたいに。
左腕へしがみついた。
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「一緒」
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あいは何も言わない。
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ただ。
そっと。
クルミの背中へ抱きついている。
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長儒会の老人の一人が。
三人をちらりと見た。
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その視線に。
コスピの目が細くなる。
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空気が少し張る。
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だが。
クルミが困ったように笑った。
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「あぁ」
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「この娘たちは」
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「ぼくが育てたので」
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少し間。
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「娘のようなものです」
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沈黙。
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ももが即座に抗議した。
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「ような、じゃないもん!」
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コスピもうなずく。
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「娘」
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あいは無言でさらに抱きつく。
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クルミが少し困る。
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「はいはい」
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「ごめんね」
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長儒会の老人達が。
その様子を静かに見ていた。
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そして。
気づく。
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最強。
聖域の中心。
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そんな存在なのに。
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やっていることは。
普通の父親だった。
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吉見が小さくつぶやく。
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「……なんか」
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山城もうなずく。
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「普通なんだよな」
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ハクが静かに言った。
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「だからじゃ」
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全員がハクを見る。
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ハクはクルミを見たまま続ける。
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「この者は」
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「聖域の中心たりえる」
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空気が静かになる。
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クルミは苦笑していた。
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「大げさだなぁ」
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その瞬間。
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ピシ……
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屋敷の空間がわずかに揺れる。
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誰も触れていない。
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ただ。
クルミが照れただけ。
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長儒会の顔色が変わる。
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山城が頭を抱える。
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「照れて空間歪ませるな!!」
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ココアが笑う。
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「おとうさんだから!」
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玲桜だけが静かだった。
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そして。
小さく目を伏せる。
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“家”。
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それが。
クルミの核なのだと。
第二部第40話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、もも、コスピ、あいの三人娘と、クルミの関係が強く描かれる回になりました。
三人にとってクルミは、
「聖域の中心」
である前に、
「育ててくれた人」
です。
だからこそ、自然に寄り添い、守ろうとします。
また、長儒会側から見ると、クルミは世界を揺るがす存在でありながら、やっていることは普通の父親のようにも見えています。
そのギャップこそが、聖域の異質さなのかもしれません。
そして今回、ハクが語った
「だから聖域の中心たりえる」
という言葉も、かなり重要な意味を持っています。
力だけではなく、“家”そのものだからこそ、クルミは中心なのです。
なお、第二部第41話は、作者ブログ「DEGUだよ。」へ先行掲載予定です。
少し先の未来――
ライが見せた「終わった世界」。
よろしければ、そちらもご覧ください。
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