第二部 第39話 ほんの少し先
静まり返っていた。
⸻
長儒会。
黒スーツ達。
市役所職員。
⸻
誰も動けない。
⸻
ただ。
ライだけが静かだった。
⸻
白銀の毛。
赤い瞳。
⸻
小さな身体。
⸻
なのに。
この場で一番恐ろしい。
⸻
ライが小さく言った。
⸻
「ぼくは」
⸻
少し間。
⸻
「ほんの少し」
⸻
「繋いだだけ」
⸻
空気が止まる。
⸻
長儒会の老人が震える。
⸻
「……繋いだ?」
⸻
ライは静かだった。
⸻
「君たちは」
⸻
「ほんの少し先の未来を見た」
⸻
山城が息を呑む。
⸻
さっきの光景。
⸻
炎。
廃墟。
悲鳴。
⸻
黒い影。
⸻
そして。
“何も残っていない世界”。
⸻
ライが続ける。
⸻
「それが」
⸻
「どれほど」
⸻
「愚かなことか」
⸻
赤い瞳が。
静かに長儒会を見つめる。
⸻
「知らされたんだ」
⸻
沈黙。
⸻
老人達の顔色が変わる。
⸻
初めて。
本当の恐怖が浮かんでいた。
⸻
長儒会の一人が小さく言った。
⸻
「……未来予知」
⸻
玲桜が静かに否定する。
⸻
「違います」
⸻
全員が玲桜を見る。
⸻
玲桜はライを見たまま。
静かに言った。
⸻
「ライは」
⸻
「時間へ触れています」
⸻
空気が凍る。
⸻
吉見が頭を抱える。
⸻
「だからさらっと怖いこと言うなって……」
⸻
ハクが小さくつぶやく。
⸻
「やはり」
⸻
「別格か」
⸻
ジェットも苦笑する。
⸻
「ライ怒らせるとマジで終わるからな」
⸻
ライはそんな会話に興味がない。
⸻
ただ。
静かに長儒会を見ている。
⸻
その瞬間。
中央の老人が言った。
⸻
「……我々は」
⸻
声が震えていた。
⸻
「ただ」
⸻
「国を守ろうと」
⸻
ライが小さく首を傾げる。
⸻
「支配したいだけでしょ?」
⸻
即答だった。
⸻
空気が凍る。
⸻
老人が止まる。
⸻
ライは静かに続けた。
⸻
「怖いんだよね」
⸻
「理解できないものが」
⸻
「だから」
⸻
「檻に入れたい」
⸻
長儒会の誰も反論できない。
⸻
ライの赤い瞳が。
静かに細くなる。
⸻
「でも」
⸻
少し間。
⸻
「聖域は」
⸻
「閉じ込められない」
⸻
その瞬間。
⸻
ゴォ……
⸻
遠く。
聖域側の空気が揺れる。
⸻
世界樹。
⸻
その気配だけで。
空間が震えていた。
⸻
クルミは小さくため息をつく。
⸻
「ライ」
⸻
ライが振り向く。
⸻
クルミは困ったように笑った。
⸻
「脅かしすぎだよ」
⸻
ライは少し考えた。
⸻
そして。
小さく言った。
⸻
「……ごめんなさい」
⸻
その瞬間。
場の空気が少しだけ緩む。
⸻
だが。
長儒会はもう理解していた。
⸻
聖域は。
⸻
“触れてはいけないもの”なのだと。




