第二部 第37話 ライが見ているもの
――ズレた。
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その瞬間だった。
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景色が消える。
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屋敷。
長儒会。
黒スーツ。
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全部。
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消えた。
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代わりに。
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廃墟。
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炎。
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崩れた建物。
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燃える車。
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空が黒い。
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山城が息を呑む。
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「……なんだ」
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吉見が周囲を見る。
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「ここ……」
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人が逃げている。
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叫び声。
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泣き声。
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人。
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人。
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人。
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だが。
“何か”から逃げている。
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得体が知れない。
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恐ろしいもの。
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それが通った後みたいだった。
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その瞬間。
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ドォォン!!
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遠くで建物が崩れる。
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悲鳴。
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市役所職員が震える。
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「何が起きてる!?」
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誰も答えられない。
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玲桜だけが静かだった。
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『……視えている』
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無線越し。
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玲桜の声が低い。
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『ライの視界です』
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空気が凍る。
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前方。
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“何か”がいた。
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赤い瞳。
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銀色の髪。
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小さな影。
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ライ。
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だが。
いつものライじゃない。
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感情がない。
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静かに。
ただ立っている。
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その周囲。
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黒い影。
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無数。
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縦横無尽。
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矛盾した軌道で走り抜ける。
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速い。
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いや。
速さの概念がおかしい。
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影が通るたび。
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悲鳴。
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破壊音。
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人が消える。
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山城が叫ぶ。
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「何なんだよあれ!!」
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その瞬間。
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ライが。
こちらを見た。
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赤い瞳。
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静かだった。
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だが。
その奥。
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深い悲しみ。
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そして。
圧倒的な“拒絶”。
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ハクが小さく震える。
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「……まさか」
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ジェットも息を呑む。
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「ライ」
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「お前」
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玲桜の声が静かに響く。
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『本来』
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『ライは』
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少し間。
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『時間を戻すだけの存在ではありません』
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空気が止まる。
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黒い影が。
再び走る。
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その瞬間。
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空間が切れた。
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建物ごと。
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何もかも。
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“なかったこと”みたいに。
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消えた。
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市役所職員が崩れ落ちる。
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「意味がわからない……」
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玲桜が静かに言った。
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『ライは』
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『終わった世界を見ている』
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その瞬間。
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炎の向こう。
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巨大な“何か”が。
ゆっくり。
顔を上げた。




