第二部 第23話 消えなさい
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回の第23話では、ついにスピネルが前へ出ます。
認識災害型存在。
世界を滅ぼした怪物。
それに対して、門戸温泉郷側がどう対処するのか。
そして、“最強”と呼ばれるスピネルが、どれほど別格の存在なのかも描かれる回になります。
静かで。
美しく。
けれど圧倒的。
今回は、そんなスピネルという存在そのものが描かれていきます。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
https://applebrother.wordpress.com/
ビキ……
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結界に亀裂が走る。
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温泉街の空気が凍った。
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黒い存在が蠢く。
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見てはいけない。
理解してはいけない。
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なのに。
視線が引き寄せられる。
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市役所職員の一人がふらつく。
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「……あ」
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玲桜が即座に前へ出た。
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「見るな」
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その瞬間。
認識が遮断される。
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職員が崩れ落ちた。
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山城が叫ぶ。
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「下がれ!!」
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吉見が市役所側を引き戻す。
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金竜の少女は震えていた。
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「無理……」
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「結界がもたない……」
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黒い存在が。
ゆっくり。
こちらを向く。
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その瞬間だった。
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静かに。
ひとりの影が前へ出る。
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黒い髪。
漆黒の瞳。
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美しい。
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ただ立っているだけで。
空気そのものが変わる。
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スピネル。
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温泉街が静まり返る。
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ココア達も動かない。
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玲桜だけが静かに目を伏せた。
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スピネルは。
怪物の目の前まで歩いていく。
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黒い存在が揺れる。
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まるで。
“理解できないもの”を前にしたように。
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スピネルが立ち止まる。
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静かだった。
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怒っているわけでもない。
叫ぶわけでもない。
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ただ。
圧倒的だった。
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そして。
美しい声で言った。
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「消えなさい」
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その瞬間だった。
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世界が沈黙する。
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黒い存在が止まる。
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空気が凍る。
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次の瞬間。
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バキン!!
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黒い存在そのものへ。
無数の亀裂が走った。
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市役所職員が息を呑む。
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「え……」
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怪物が暴れる。
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空間が歪む。
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認識が揺れる。
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だが。
スピネルは動かない。
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ただ。
見下ろしていた。
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まるで。
“格が違う”
とでも言うように。
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怪物が絶叫する。
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声ではない。
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世界そのものを引っ掻くような音。
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温泉街の窓ガラスが震える。
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だが。
スピネルは静かに言った。
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「ここは」
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少し間。
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「お前がいていい場所じゃない」
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その瞬間。
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怪物が崩壊した。
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黒い霧になり。
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光へ呑まれる。
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そして。
消えた。
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沈黙。
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誰も動けない。
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市役所職員が震える。
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「……なんだよ」
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「今の」
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金竜の少女が呆然とつぶやく。
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「……消した」
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「世界崩壊存在を」
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ココアが小さく笑った。
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「だから言ったじゃん」
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「最強だって」
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スピネルは振り返る。
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そして。
普通に言った。
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「未唯」
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「ご飯、冷めるわよ」
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未唯がハッとする。
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「はーい!」
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その瞬間。
温泉街の日常が戻った。
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市役所側だけが。
まだ現実へ戻れていなかった。
第二部第23話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、スピネルが正式に“世界崩壊存在”へ対峙する回になりました。
認識災害型存在は、
・理解するほど侵食される
・見るだけでも危険
・世界そのものを壊す
という極めて危険な存在です。
ですが、そんな相手に対しても、スピネルはほとんど動きませんでした。
怒鳴るわけでもなく。
力を誇示するわけでもなく。
ただ、
「消えなさい」
と告げるだけ。
それだけで崩壊存在を消滅させています。
この回で描かれたのは、“強さ”というより、“格の違い”なのかもしれません。
また、戦いが終わったあと、
「未唯、ご飯冷めるわよ」
と普通に日常へ戻るところも、門戸温泉郷らしい空気になっています。
どれだけ危険な存在が現れても、ここにはちゃんと“生活”があります。
そしてそれを守っているのが、スピネル達なのかもしれません。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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