第二部 第20話 魔法使い
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回の第20話では、ついに「魔法」という言葉が登場します。
異世界。
竜。
ミスリル。
ここまで来れば不思議ではないのかもしれません。
ですが、“本当に存在している”と理解した時、人はやはり驚きます。
一方で、門戸温泉郷側にとっては、それらは特別なものではなく、ただそこにある日常でもあります。
今回は、そんな“普通側”と“こちら側”の感覚の違いが、より強く描かれる回になります。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
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「魔法……?」
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市民課職員の一人が固まっていた。
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「まほう」
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「マジック……?」
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頭の中で。
何かがぐるぐる回っている。
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異世界。
竜。
エルフ。
ミスリル。
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完全にファンタジーだった。
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「なんだそれ……」
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「魔法使いがいるのか……?」
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吉見が横を見る。
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「壊れたか?」
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山城が小さく言う。
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「いや、元々こういうの好きなやつ」
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実は。
その職員。
少し嬉しかった。
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窓際同然。
厄介払いみたいな異動。
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そう思っていた。
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だが。
心のどこかでは。
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「本物」が見られるかもしれない。
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そんな期待もあった。
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そして。
つい。
口に出た。
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「ま、魔法使いがいるんですか」
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沈黙。
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ココア達が止まる。
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黒姫も止まる。
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玲桜まで少し止まった。
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「……はい?」
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思いがけない質問だった。
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吉見が頭を押さえる。
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「おい」
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山城がため息をつく。
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「よりによってそこ行くか」
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だが。
職員は止まらなかった。
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「火とか出すんですか!?」
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「飛ぶんですか!?」
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「詠唱とかあるんですか!?」
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ココアが少し考える。
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「火は出る」
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「飛ぶ人もいる」
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「詠唱は……」
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黒姫が静かに言った。
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「人によります」
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職員の目が輝く。
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「いるんだ!!」
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市役所側が引いていた。
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「なんで嬉しそうなんだお前」
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職員は止まらない。
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「杖とか!」
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「ローブとか!」
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ココアが楽しそうに答える。
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「たまに!」
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「やっぱり!!」
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その瞬間だった。
奥の席。
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パチッ。
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小さな火花。
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市役所側が振り向く。
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そこには。
白髪の少女。
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指先の上で。
小さな炎を揺らしていた。
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「……」
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職員が止まる。
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少女は不思議そうに首を傾げる。
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「?」
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ココアが紹介する。
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「あい」
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「火系」
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職員の顔が真っ赤になる。
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「ほんとにいたぁぁぁ!!」
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吉見が頭を抱える。
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「うるせぇ」
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あいは少し困った顔をした。
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そして。
ふわっと炎を消す。
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玲桜が静かに言った。
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「魔法というより」
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「現象に近いです」
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職員が聞く。
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「げ、現象?」
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黒姫が静かに補足する。
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「こちら側では」
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「意思や適性が力として発現することがあります」
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ソラも続ける。
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「魔法と呼ぶ者もいます」
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錫が小さく言った。
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「科学との区別は曖昧です」
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職員は完全に感動していた。
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「すげぇ……」
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山城が小さくつぶやく。
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「適応早いなこいつ」
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その瞬間だった。
ココアがニヤッと笑った。
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「ちなみに」
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嫌な予感。
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「玲桜もやばいよ?」
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玲桜が少し目を細める。
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市役所職員の目が輝いた。
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「見たいです!!」
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玲桜が静かに答える。
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「嫌です」
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即答だった。
第二部第20話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、「魔法使いはいるのか?」という、とても異世界らしい話題が描かれました。
ですが、玲桜達にとって“魔法”という言葉は少し曖昧です。
力。
現象。
適性。
世界への干渉。
それらを人間側が「魔法」と呼んでいるだけなのかもしれません。
また、市役所職員の反応からも分かるように、普通の人間から見れば、
・火を出す
・竜が飛ぶ
・ミスリルが存在する
という時点で、完全にファンタジー世界です。
一方で、こちら側ではそれが「日常」になっています。
特に、あいが自然に炎を扱う場面は、こちら側の世界観を象徴しているのかもしれません。
そして最後の玲桜の
「嫌です」
という即答。
あの距離感もまた、今の門戸温泉郷らしい空気になっています。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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