第二部 第19話 通貨 『小料理屋 未唯』
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回の第19話では、門戸温泉郷で使われている「通貨」の話が登場します。
銅貨。
銀貨。
金貨。
そして、ミスリル硬貨。
異世界らしい要素が増えていく一方で、『小料理屋 未唯』では相変わらず温かな食卓が広がっています。
どれだけ不思議な世界でも、そこにはちゃんと“生活”があります。
そして今回は、玲桜がさらっととんでもないことを言う回でもあります。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
https://applebrother.wordpress.com/
暖簾が揺れる。
⸻
いい匂いがしていた。
⸻
煮物。
焼き魚。
湯気の立つご飯。
⸻
市役所職員達の腹が鳴る。
⸻
ココアがニコッと笑った。
⸻
「ご飯、食べるよね?」
⸻
その瞬間。
全員の視線が市役所側へ向く。
⸻
市役所職員達が止まる。
⸻
「……え」
⸻
吉見が小さく言った。
⸻
「圧がすごい」
⸻
山城がため息をつく。
⸻
「断れる空気じゃない」
⸻
市民課職員が恐る恐る言った。
⸻
「……いただきます」
⸻
その瞬間。
未唯が嬉しそうに笑った。
⸻
「はーい!」
⸻
奥から未唯の母の声。
⸻
「いっぱいあるからねー」
⸻
温泉街の空気が少し緩む。
⸻
だが。
市民課職員がふと止まった。
⸻
「しかし」
⸻
「お金は?」
⸻
その瞬間だった。
ココアが即答する。
⸻
「いいのいいの!」
⸻
「今日のところは」
⸻
「私たちの、お・ご・り!」
⸻
ニコニコしている。
⸻
そして。
隣を見る。
⸻
「ね?」
⸻
玲桜へ。
⸻
玲桜は少し止まった。
⸻
そして静かに言った。
⸻
「……そうですね」
⸻
吉見が小さくつぶやく。
⸻
「今ちょっと間あったぞ」
⸻
山城もうなずく。
⸻
「財布事情を感じた」
⸻
その瞬間だった。
吉見がふと聞いた。
⸻
「っていうか」
⸻
「通貨あるのか?」
⸻
空気が少し止まる。
⸻
玲桜が普通に答えた。
⸻
「あります」
⸻
市役所側が止まる。
⸻
「あるの!?」
⸻
玲桜は静かに続けた。
⸻
「というか」
⸻
「いつの間にかできていました」
⸻
「銅貨」
⸻
「銀貨」
⸻
「金貨」
⸻
少し間。
⸻
「あと、ミスリル硬貨が」
⸻
沈黙。
⸻
市役所側が完全停止した。
⸻
「はぁ?」
⸻
「何?」
⸻
「み、みすりる?」
⸻
市民課職員が叫ぶ。
⸻
「ミスリルってなんだ!!」
⸻
ココアが不思議そうに首を傾げた。
⸻
「ミスリルはミスリルじゃん」
⸻
「説明になってない!!」
⸻
黒姫が静かに補足する。
⸻
「希少金属です」
⸻
ソラも続ける。
⸻
「通路深層部で稀に採取」
⸻
錫が小さく言う。
⸻
「強度、魔力親和性ともに高い」
⸻
市役所側が頭を抱える。
⸻
「魔力って言った!?」
⸻
ココアは楽しそうだった。
⸻
「でもね!」
⸻
「勿体ないから」
⸻
「ものすごーく高価で」
⸻
「誰も持ってない」
⸻
その瞬間だった。
玲桜が静かに言った。
⸻
「持ってます」
⸻
沈黙。
⸻
ココアが止まる。
⸻
「えぇ!?」
⸻
マロくんも驚く。
⸻
「い、いつのまに!?」
⸻
いっちゃんが小さく言った。
⸻
「さすが」
⸻
黒姫も少し目を細める。
⸻
「……管理者」
⸻
吉見が玲桜を見る。
⸻
「どこで手に入れた」
⸻
玲桜は静かに答えた。
⸻
「落ちていました」
⸻
全員が止まる。
⸻
山城が真顔で言った。
⸻
「絶対拾っちゃダメなやつだろ」
⸻
ココアが叫ぶ。
⸻
「恐るべし玲桜!!」
⸻
未唯だけは普通だった。
⸻
「りおくんすごい!」
⸻
玲桜は少し困った顔をした。
⸻
その瞬間。
未唯の母が料理を運んでくる。
⸻
「はい、ご飯できたよ」
⸻
湯気が立つ。
⸻
その匂いに。
市役所側の緊張が少しだけほどけた。
⸻
異世界。
通路。
竜。
ミスリル。
⸻
なのに。
そこにはちゃんと。
「いただきます」があった。
第二部第19話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、「異世界にも経済が存在する」という話が描かれました。
門戸温泉郷は、すでに単なる避難場所ではなく、“町”として成立し始めています。
人が集まれば、
食事が必要になり、
宿が必要になり、
そして通貨も必要になります。
また、玲桜が持っていた「ミスリル硬貨」も、こちら側の世界が普通の異世界ではないことを象徴しています。
特に、
「落ちていました」
という玲桜の発言は、彼らしいと言えば彼らしいのかもしれません。
一方で、『小料理屋 未唯』での食事風景からも分かるように、どれだけ世界が広がっても、門戸温泉郷の中心には“日常”があります。
食事をして、
笑って、
誰かが「いただきます」と言う。
それこそが、この町を“世界”として成立させているのかもしれません。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
https://applebrother.wordpress.com/




