第二部 第18話 帰還者
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回の第18話では、「帰還者」という存在について描かれます。
門戸温泉郷は、ただ異世界へ迷い込む場所ではありません。
中には、こちら側へ呼ばれる者。
そして、一度帰ったはずなのに、再び戻ってくる者もいます。
帰れなかった者。
帰る場所を失った者。
そして、ここを“居場所”として選ぶ者。
今回は、そんな門戸温泉郷の本質が少し見えてくる回になります。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
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門戸温泉郷の湯気が揺れる。
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空には竜。
温泉街には異世界住民。
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だが。
問題はそれだけではなかった。
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市民課職員が小さく言った。
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「……そうか」
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吉見が静かにうなずく。
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「ここに入ってくる人間達の管理も怠れない」
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山城も真面目な顔になる。
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「戻らない者もいるかもしれない」
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温泉街の空気が少し静かになる。
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市役所側の一人が小さくつぶやいた。
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「観光気分じゃ済まない……」
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玲桜が静かに答える。
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「はい」
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「入れば出る」
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少し間。
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「そんな簡単なことも」
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「ここでは約束できません」
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市民課職員が顔を上げる。
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玲桜は続けた。
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「中には」
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「呼ばれた者」
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「帰還者」
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「定住を選ぶ者」
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「様々な人間がいます」
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その瞬間。
温泉街の奥。
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小さな子供が走っていく。
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人間だった。
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だが。
どこか普通ではない。
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ココアが小さく手を振る。
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「おーい!」
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子供が笑う。
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「ココアおねーちゃーん!」
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市民課職員が聞く。
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「……あの子は?」
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黒姫が静かに答えた。
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「帰還者です」
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空気が止まる。
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市民課職員が聞き返す。
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「帰還……?」
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ソラが静かに説明する。
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「幼少期に一度通路へ迷い込み」
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「外へ戻った者です」
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錫が続ける。
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「ですが」
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「成長後、再びこちらへ来ました」
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市民課職員が止まる。
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「……自分から?」
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玲桜が静かにうなずく。
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「呼ばれたのでしょう」
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その瞬間だった。
遠くで鐘が鳴る。
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温泉街に風が流れる。
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湯気が揺れる。
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市民課職員が小さくつぶやいた。
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「……帰る場所になってるのか」
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吉見が静かに答える。
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「そういうことだ」
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山城がため息をつく。
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「だから厄介なんだよ」
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「ただの異世界なら閉鎖できた」
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「でもここには」
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温泉街を見る。
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笑っている人。
働いている人。
暮らしている人。
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「生活がある」
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その瞬間だった。
玲桜が静かに言った。
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「拒絶だけでは終わりません」
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市民課職員が玲桜を見る。
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玲桜の視線は。
温泉街へ向いていた。
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「ここへ来て」
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「救われた者もいます」
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空気が静かになる。
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その瞬間。
『小料理屋 未唯』の暖簾が揺れた。
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未唯が顔を出す。
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「ごはんできたよー!」
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ココアが目を輝かせた。
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「行く!!」
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空気が少し緩む。
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市民課職員が小さく笑った。
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「……なんなんだここ」
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吉見が静かに答えた。
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「聖域だよ」
第二部第18話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、「帰還者」という存在が正式に描かれました。
通路は単なる移動手段ではありません。
時には人を呼び、
時には人を戻し、
そして時には、“帰る場所”そのものになっていきます。
特に、
「ここへ来て救われた者もいます」
という玲桜の言葉は、門戸温泉郷という場所の本質を表しています。
ここは危険な場所です。
異世界であり、普通ではない存在達も数多くいます。
ですが同時に、行き場を失った者達を受け入れる“聖域”でもあります。
また、『小料理屋 未唯』が象徴するように、門戸温泉町にはただの異世界ではなく、“暮らし”があります。
食事があり。
笑い声があり。
帰る場所がある。
だからこそ、この町は少しずつ「世界」として成立し始めています。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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