第二部 第17話 どこまでが住民
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回の第17話では、「門戸温泉郷の住民とは誰なのか」という問題が描かれます。
竜。
異世界住民。
帰還者。
そして、人ならざる存在達。
普通の行政では到底対応できない問題ばかりですが、それでも“町”である以上、管理しなければなりません。
一方で、こちら側ではすでにそれが日常になり始めています。
市役所側と温泉郷側の感覚の違いも、より強く見えてくる回になります。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
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空を竜が旋回している。
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温泉街には湯気。
笑い声。
異世界の住民達。
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そして。
完全に処理能力を超え始めた市役所職員達。
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市民課職員が恐る恐る聞いた。
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「つ、つまり……」
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空を指差す。
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「アレも住民……?」
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その瞬間。
ココアが満面の笑みで答えた。
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「もっちろん!」
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市役所側が止まる。
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黒姫も静かにうなずく。
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「当然です」
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ソラが小さく補足する。
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「登録対象」
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錫も静かに続ける。
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「長期滞在者ですので」
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市民課職員の顔が死んだ。
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「登録……」
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「するの……?」
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ココアが不思議そうに首を傾げる。
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「するよ?」
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「住民だもん」
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市民課職員が頭を抱える。
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「いや待って」
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「どこまでが住民なんですか」
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沈黙。
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その場の全員が少し考えた。
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吉見が小さくつぶやく。
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「ついにそこ来たか……」
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山城が遠い目をする。
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「会議でも揉めた」
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ココアが指を折り始める。
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「まず住んでる人」
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「旅館経営してる人」
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「通路警備隊」
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「温泉管理」
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「ご飯屋さん」
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「あと飛行訓練隊」
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市民課職員が止まる。
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「隊!?」
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ジェットが笑う。
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「正式名称まだないけどな」
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黒姫が静かに言う。
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「一応組織です」
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市民課職員がさらに頭を抱える。
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「組織ぃ……」
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その瞬間だった。
遠くから。
巨大な白竜が降下してくる。
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ドォォォン……
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着地。
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市役所側がビクッとする。
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だが。
白竜は普通に温泉街の広場へ座った。
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子供達が駆け寄る。
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「おかえりー!」
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白竜が嬉しそうに尻尾を振った。
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市民課職員が止まる。
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「……犬?」
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ココアが笑う。
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「違う!」
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「竜!」
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白竜が変身する。
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現れたのは。
白髪の青年。
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普通に湯上がり牛乳を飲み始めた。
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市民課職員が遠い目をする。
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「……登録するんだ」
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吉見が肩を叩く。
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「頑張れ」
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その瞬間だった。
玲桜が静かに言った。
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「ちなみに」
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全員嫌な予感がした。
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玲桜は普通に続ける。
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「住民票は世界樹側で同期されます」
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沈黙。
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市民課職員が止まる。
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「……はい?」
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ソラが静かに補足する。
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「拒否された者は登録されません」
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錫も言う。
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「虚偽登録も不可」
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山城が小さくつぶやく。
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「世界樹の方が優秀じゃねぇか……」
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吉見が遠い目をする。
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「もう役所いらない説ある」
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その瞬間。
ココアが元気に言った。
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「でも人間側の手続きいるでしょ!」
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市民課職員が崩れ落ちた。
第二部第17話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、「どこまでが住民なのか」という、門戸温泉郷ならではの問題が描かれました。
普通の町なら、
・人間
・住所
・戸籍
で済む話です。
ですが門戸温泉郷には、
・竜
・異世界種族
・帰還不能者
・通路利用者
など、通常の制度では扱えない存在が数多くいます。
それでも、彼らは確かに“ここで暮らしている”。
だからこそ、市役所側も「管理しないわけにはいかない」という状況へ追い込まれていきます。
また、玲桜の
「住民票は世界樹側で同期されます」
という発言からも分かるように、世界樹そのものが“こちら側のルール”を作り始めています。
そして、市役所側も少しずつ理解し始めています。
ここは単なる異世界ではなく、“生活圏”なのだと。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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