エルフの娘
門戸温泉郷には、ときどき長い旅を終えた人が辿り着きます。
呼ばれて来る人もいます。
耳長属の娘が歩いていた。
「えっ、本物!?」
観光客のコスプレ集団が騒いでいた。
耳長属はエルフではない。
そう教えてもらったことがある。
エルフはこんなに耳が長くない。
「それだけ?」
と聞いたら、
「それだけです」
と族長は言った。
ココアが言った。
「耳長属じゃないよ」
本物だった。
エルフだった。
エルフには見えている。
人には見えない小さな存在が。
風。
光。
火。
水。
闇。
大地。
命令ではない。
友人として頼むことができる。
娘は泣いていた。
「やっと見つけた」
五百年かかった。
世界をさまよっていた。
人に見つからないように。
ここだ。
呼ばれている。
やっと。
市民課で住民記帳台が用意された。
種族名。
エルフ。
初めて書かれた。
誰も気にしなかった。
耳を隠さなくていい。
その耳は大事なの。
昔、
切ってしまおうと思ったことがあった。
止めたのは母だった。
母は普通の人だった。
「どうして?」
と娘は聞いた。
母は言った。
「その耳が、
あなたを仲間のところへ連れていく」
だから大切にして。
母は知っていた。
娘が何者なのか。
「ここにいていい」
スピネルが言った。
「待っていたのだから」
娘は笑った。
「ありがとう」
※市民課記録より
本日、種族名「エルフ」の登録が行われた。
門戸温泉郷では初めての登録である。




