第二部 第10話 安城
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
門戸温泉郷の存在は、ついに「現実側」の行政機関にも知られるようになりました。
そして今回登場するのは、市役所から派遣された職員達と、新たに着任した安城という女性警官です。
異世界。
通路。
世界樹。
普通なら到底受け入れられないはずの現実。
ですが、現場ではすでに「どう対処するか」が始まっています。
一方で、こちら側も静かに人を選び始めています。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
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「困ります!!」
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西署に声が響いた。
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門戸温泉郷担当部(仮)。
その手書きのプレートの前で。
三人の男女が立っていた。
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市役所。
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派遣組だった。
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吉見が小さくつぶやく。
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「来たな……」
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山城も嫌そうな顔をする。
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「ついに来た」
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先頭に立つ女性は。
ピシッとした婦警制服。
眼鏡。
長い黒髪を後ろでまとめている。
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美人だった。
かなり。
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だが。
今は完全に怒っていた。
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「勝手なことをされては困ります!!」
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その言葉に。
西署側は全員疲れた顔をした。
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対応しているのは。
一人の女性警官。
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同じく制服姿。
だが。
空気が違った。
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鋭い。
静か。
一歩も引かない。
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彼女が静かに言った。
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「あなた方市役所には」
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「一月も前から依頼があったはずですが」
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空気が止まる。
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市役所側の男が顔をしかめる。
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「それは」
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婦警は続けた。
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「勝手だと言いますが」
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少しだけ眼鏡を押し上げる。
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「ならば、いつまで待てと?」
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沈黙。
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「私どもでどうこうできるとでも?」
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静かな声だった。
だが。
完全に怒っていた。
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吉見が小さくつぶやく。
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「うわ」
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山城も引いていた。
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「キレてる」
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ココアが楽しそうに言う。
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「強そう!」
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黒姫が小さくうなずく。
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「かなり」
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その婦警が振り返った。
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「本日付けで着任いたしました」
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小さく敬礼する。
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「安城です」
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空気が少し変わる。
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吉見が説明する。
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「本部から回された」
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「対通路案件担当」
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山城が続ける。
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「つまり巻き込まれ組」
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安城が即答する。
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「聞こえています」
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山城が黙った。
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安城は市役所側を見る。
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「そもそも」
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「異世界住民の登録についても」
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「通路管理についても」
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「観光流入についても」
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「すべて未対応」
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市役所側がたじろぐ。
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安城が続ける。
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「それを現場へ押しつけておいて」
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「勝手なことをするな、ですか」
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静かだった。
だが。
怖かった。
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ココアが小さく言う。
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「好き」
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マロくんもうなずく。
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「強い」
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その瞬間だった。
市役所側の一人が言った。
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「し、しかし!」
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「相手は異世界ですよ!?」
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安城が即答した。
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「知っています」
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「だから?」
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完全に止めを刺した。
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吉見が心の中で思う。
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(強ぇ……)
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その瞬間だった。
ドアが開く。
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玲桜だった。
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静かに部屋へ入ってくる。
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安城が止まる。
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玲桜も止まる。
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一瞬。
空気が静かになる。
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玲桜が小さく頭を下げた。
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「初めまして」
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安城も静かに礼を返す。
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「西署特殊案件担当補佐」
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「安城です」
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玲桜が言った。
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「門戸温泉郷管理担当」
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少し間。
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「玲桜です」
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その瞬間だった。
ココアが小さくつぶやく。
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「なんか始まりそう」
第二部第10話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、市役所側と西署側の温度差がかなり強く描かれる回になりました。
特に安城は、ただ巻き込まれたわけではなく、自らこの部署を志願して来ています。
そして彼女自身もまた、「呼ばれた」と感じていました。
これは、世界樹や通路側が“適合する者”を少しずつ選び始めていることでもあります。
また、市役所側がまだ「異世界」を理解しきれていない一方で、西署側はすでに“現実として受け入れ始めている”ことも描かれています。
異世界を否定する段階は、もう終わりつつあるのかもしれません。
ここから先は、門戸温泉郷そのものがさらに広がり、「現実側」がより深く関わっていくことになります。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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