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無言聖域ーーデグーたちの記録  作者: おじさんヒーロー
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第二部 第7話 身元確認

無言聖域

第二部 門戸温泉郷編


ここまで読んでいただきありがとうございます。


門戸温泉町の存在は、ついに西署や市役所側でも無視できないものになり始めました。


ですが今回の第7話では、そんな「現実側」の問題以上に、“異世界を管理するとはどういうことなのか”という、とても根本的な問題が語られます。


異世界住民。


通路利用者。


戸籍のない者。


時間の違う者。


そもそも「身元確認」とは何なのか。


真面目な話をしているはずなのに、どこか少しずれている――そんな門戸温泉郷らしい空気の回になります。


作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。


https://applebrother.wordpress.com/

リビングは少し落ち着いていた。


⸻


お茶の湯気。


笑い声。


静かな空気。


⸻


異世界の話をしているとは思えないほど。


普通だった。


⸻


その中で。


山城がひとつ咳払いをした。


⸻


「さて」


⸻


空気が少し変わる。


⸻


吉見が横で資料を開く。


かなり分厚い。


⸻


たすくが嫌な顔をする。


⸻


「うわ、役所っぽい」


⸻


吉見が即答した。


⸻


「役所よりマシだ」


⸻


全員が少し黙った。


⸻


山城が静かに続ける。


⸻


「先日ご連絡いただいた件について」


⸻


「連日の会議の結果」


少し疲れた顔をする。


⸻


「とりあえず」


⸻


「まぁ」


⸻


「暫定的ではありますが」


⸻


その時点で全員嫌な予感がしていた。


⸻


山城が言う。


⸻


「聖域側への通路入り口が当方にある以上」


⸻


「通路出入り口については」


⸻


「西署預かりとさせていただきます」


⸻


沈黙。


⸻


ココアが小さく言った。


⸻


「うわぁ」


⸻


マロくんが言う。


⸻


「大変そう」


⸻


いっちゃんが静かにうなずく。


⸻


「巻き込まれたな」


⸻


吉見が真顔で答える。


⸻


「本当にそう」


⸻


山城が続ける。


⸻


「通行する者の」


⸻


「身元確認を含めて――」


⸻


その瞬間だった。


⸻


「はい」


⸻


ココアが手を上げた。


⸻


山城が止まる。


⸻


ココアが真顔で聞く。


⸻


「身元確認ってさ」


⸻


少し間。


⸻


「どうやるの?」


⸻


沈黙。


⸻


山城が止まる。


⸻


吉見も止まる。


⸻


たすくが顔を覆う。


⸻


「そこなんだよな……」


⸻


ココアは真面目だった。


本当に。


⸻


「だってさ」


⸻


指を折り始める。


⸻


「エルフいるでしょ」


⸻


「羽ある人いるでしょ」


⸻


「人じゃない人いるでしょ」


⸻


「あと戸籍ない人」


⸻


「世界違う人」


⸻


「時間ズレてる人」


⸻


山城が頭を抱える。


⸻


「やめてくれ」


⸻


吉見が静かに言った。


⸻


「会議でも同じこと言われた」


⸻


ココアが首を傾げる。


⸻


「で?」


⸻


吉見が真顔で答える。


⸻


「決まってない」


⸻


全員が吹き出した。


⸻


黒姫が小さく笑う。


⸻


「正直」


⸻


マロくんが言う。


⸻


「好き」


⸻


いっちゃんがうなずく。


⸻


「人間っぽい」


⸻


山城が机へ突っ伏した。


⸻


「上はな」


⸻


「とりあえず管理しろって言うんだよ」


⸻


「でも異世界だぞ!?」


⸻


ココアがうなずく。


⸻


「そうだよ」


⸻


「だから聞いたの」


⸻


たすくがため息をつく。


⸻


「会議地獄だったろ」


⸻


吉見が遠い目をする。


⸻


「“エルフの定義とは”から始まった」


⸻


全員が止まる。


⸻


マロくんが笑い始める。


⸻


ココアが机を叩く。


⸻


「なにそれ!!」


⸻


山城が真顔で言う。


⸻


「しかも途中で」


⸻


「“羽は個人差か?”って」


⸻


たすくが吹き出した。


⸻


玲桜だけは静かだった。


⸻


そして。


小さく言った。


⸻


「大変ですね」


⸻


吉見が即答する。


⸻


「お前のせいでもある」


⸻


玲桜は少し考えた。


⸻


「否定はしません」


⸻


未唯が玲桜を見る。


⸻


「りおくん」


⸻


玲桜が視線を向ける。


⸻


未唯が小さく聞いた。


⸻


「通路って、増えるの?」


⸻


空気が少し変わる。


⸻


玲桜は静かに答えた。


⸻


「はい」


⸻


その瞬間。


吉見と山城の顔が死んだ。

第二部第7話を読んでいただきありがとうございました。


今回は、西署側が「通路管理」という現実的な問題へ本格的に向き合い始める回になりました。


ですが、相手は異世界です。


エルフ、羽のある者、時間のずれた者、戸籍の存在しない者。


普通の行政や警察では対応しきれない問題ばかりです。


特に「エルフの定義とは」という会議内容は、現実側がどれだけ混乱しているのかを象徴している場面でもあります。


また、玲桜が「通路は増える」と当然のように答えたことで、西署側がさらに巻き込まれていく空気も強くなってきました。


一方で、未唯達にとっては、異世界も通路も、すでに“日常”になり始めています。


この「普通側」と「こちら側」の感覚の違いも、第二部の大きなテーマになっていきます。


ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。


https://applebrother.wordpress.com/

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