第二部 第6話 おかえり
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
門戸温泉町や通路の存在は、少しずつ「現実側」にも知られ始めています。
ですが、未唯にとって大切なのは、異世界や世界樹だけではありません。
「帰る場所」があること。
「おかえり」と言ってくれる人がいること。
今回の第6話では、そんな“日常”と“家族”の空気が強く描かれる回になります。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
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玄関が開いた。
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「ただいまー」
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明るい声だった。
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その瞬間。
リビングの空気が止まる。
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吉見と山城が固まる。
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たすくが顔を押さえた。
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「……帰ってきた」
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パタパタと足音。
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たすくの母が普通に戻ってきた。
買い物袋を持っている。
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その後ろ。
父と弟もいる。
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弟が元気に言った。
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「ただいま!」
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そして。
リビングを見た。
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止まる。
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スピネル。
クルミ。
玲桜。
ココア達。
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異様な光景。
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だが。
弟は普通に言った。
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「わぁ、増えてる」
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たすくが頭を抱える。
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「そこ!?」
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母は普通だった。
本当に普通だった。
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「お茶足ります?」
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吉見が止まる。
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山城も止まる。
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クルミが静かにうなずく。
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「いただこう」
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スピネルも小さく頭を下げる。
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「ありがとうございます」
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母がにこっと笑う。
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「美人さんねぇ」
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吉見が心の中で叫ぶ。
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(そこなの!?)
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たすくがため息をつく。
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「母さん」
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母が普通に答える。
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「なに?」
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「怖くないの?」
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母が少し考える。
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そして。
普通に言った。
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「怖いわよ?」
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全員が止まる。
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母が続けた。
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「でも」
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未唯を見る。
玲桜を見る。
ココア達を見る。
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「この子達、悪い子じゃないもの」
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空気が静かになる。
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スピネルが小さく目を細めた。
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クルミも静かだった。
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弟が未唯を見る。
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「ねーちゃん!」
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未唯が振り向く。
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弟が笑う。
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「おかえり!」
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その瞬間だった。
未唯が止まる。
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小さく目を見開く。
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「……ただいま」
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静かな声だった。
でも。
少し震えていた。
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玲桜が未唯を見る。
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未唯は笑っていた。
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泣きそうな顔で。
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その瞬間。
外で。
通路が小さく揺れた。
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だが。
誰も動かなかった。
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クルミが静かにお茶を飲む。
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スピネルも微笑む。
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玲桜も座ったままだった。
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今は。
それより大事なものがあった。
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「おかえり」
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その言葉が。
花園よりも。
通路よりも。
未唯を強く支えていた。
第二部第6話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、たすくの家族が戻ってきたことで、「普通の家」と「こちら側」の空気が自然に重なる回になりました。
スピネルやクルミのような圧倒的存在がいても、たすくの母は普通にお茶を出し、「悪い子じゃない」と受け入れています。
それは、とても“人間側”らしい強さなのかもしれません。
また、弟の「おかえり」に対して、未唯が自然に「ただいま」と返した場面は、未唯自身がこの家を本当に“帰る場所”として受け入れ始めていることでもあります。
世界樹や通路も大切です。
ですが、未唯を最も支えているのは、案外こういう日常なのかもしれません。
ここから先は、門戸温泉郷へやって来る新しい存在達や、「普通側」の人間達との関わりもさらに増えていきます。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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