第二部 第5話 任せた
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
西署側も門戸温泉町の存在を無視できなくなり、現実側と異世界側の距離は少しずつ近づき始めています。
ですが、その一方で、こちら側にはこちら側の「流れ」があります。
今回の第5話では、スピネルとクルミ、そして玲桜達の立ち位置が少しずつ見えてきます。
静かな会話の中にも、それぞれの役割や信頼関係が描かれる回になります。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
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リビングは静かだった。
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吉見と山城は。
まだ少し固まっている。
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目の前には。
スピネル。
クルミ。
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「最強」
そう言われても。
否定できない何かがあった。
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空気そのものが違う。
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たすくが小さくため息をつく。
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「……まあ」
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「慣れるしかない」
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吉見が真顔で言った。
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「無理だろ」
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山城も即答する。
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「無理ですね」
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ココアが笑う。
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「大丈夫大丈夫」
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マロくんが言う。
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「慣れる」
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いっちゃんが小さく言った。
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「たぶん」
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吉見が頭を抱える。
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「不安しかない」
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その瞬間だった。
クルミが静かに口を開いた。
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「気にしなくていい」
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全員がクルミを見る。
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クルミは落ち着いたまま。
静かに続けた。
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「玲桜に任せた」
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空気が少し変わる。
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玲桜は静かだった。
いつも通り。
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スピネルも小さくうなずく。
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「私たちは口を出さない」
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その言葉で。
吉見と山城の顔が少し変わる。
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「……任せる?」
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山城が玲桜を見る。
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玲桜は若い。
少なくとも見た目は。
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だが。
クルミもスピネルも。
当然みたいに玲桜へ任せている。
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吉見が小さく言った。
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「責任者なのか?」
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玲桜は少し考えた。
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そして。
静かに答える。
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「管理担当です」
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ココアが吹き出した。
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「担当ってレベルじゃない」
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黒姫がうなずく。
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「だいたい玲桜」
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たすくが小さく言った。
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「まあ、そう」
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その瞬間だった。
クルミが机を見る。
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「さて」
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静かな声。
でも。
空気が自然に整う。
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「ここで」
少しだけ笑う。
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「出していただいたお茶をいただくとしよう」
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全員が止まる。
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たすくの母が淹れたお茶。
まだ湯気が立っている。
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クルミが湯のみを持つ。
ゆっくり。
静かに。
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一口。
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空気がさらに静かになる。
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山城が小さく思った。
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(なんだこれ)
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怖い。
のに。
落ち着く。
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スピネルも湯のみを持つ。
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長い黒髪が揺れる。
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美しい。
ただそれだけで。
空気が変わる。
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スピネルが小さく息を吐く。
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「……おいしい」
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たすくが少し照れたように笑う。
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「普通のお茶ですよ?」
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クルミが静かに言った。
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「普通が一番難しい」
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その瞬間。
リビングが静かになった。
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未唯は玲桜の膝の上。
玲桜は静かにお茶を飲む。
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ココア達は騒いでいる。
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なのに。
どこか落ち着いていた。
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吉見が小さくつぶやく。
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「……異世界なんだよな」
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山城が答える。
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「たぶん」
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その瞬間だった。
外で。
小さく風が揺れた。
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玲桜の目が少しだけ変わる。
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「通路」
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全員が止まる。
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玲桜が静かに立ち上がる。
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未唯も自然に降りる。
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クルミが小さく言った。
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「任せた」
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玲桜がうなずく。
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「はい」
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その瞬間。
門戸温泉郷へ。
新しい誰かが来た。
第二部第5話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、大きな戦いではなく、静かな会話の中で「こちら側」の空気が描かれる回になりました。
クルミの
「玲桜に任せた」
という言葉。
そしてスピネルの
「私たちは口を出さない」
という言葉。
これは単なる放任ではなく、玲桜への強い信頼でもあります。
また、圧倒的な存在であるスピネルやクルミが、普通にお茶を飲み、静かにその場へいることで、「日常」と「異質さ」が同時に存在している空気も描かれています。
そして、たすくの家族が自然にこの場から離れていることも、「普通側」の人間としては正しい反応なのかもしれません。
ここから先は、西署側がさらに深く門戸温泉郷へ関わっていくことになります。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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