第二部 第4話 最強
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
門戸温泉町の存在は、すでに西署や市役所側でも問題として認識され始めています。
ですが、それ以上に問題なのは――
そこにいる存在達そのものです。
今回登場するスピネルとクルミは、門戸温泉郷の中心にいる存在達。
美しく、静かで、そして圧倒的。
「最強」という言葉すら軽く感じるほどの存在感を持っています。
一方で、未唯達の日常は相変わらず少し騒がしく、少し普通ではありません。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
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リビングの空気は重かった。
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西署。
市役所。
通路。
異世界。
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もう。
普通の話ではない。
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吉見が深くため息をつく。
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「すでに署でも問題になってます」
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山城も続ける。
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「このまま放置するわけにもいかない」
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たすくが小さく言う。
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「まあな」
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吉見が頭を押さえる。
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「かと言って」
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「管理も難しいだろう」
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静かな声だった。
本気で困っている顔だった。
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「なにしろ向こうは異世界だし」
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未唯が首を傾げる。
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「異世界?」
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全員が少し止まる。
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未唯が聞く。
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「なにそれ」
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たすくがため息をつく。
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「普通に歩いていけないところ」
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未唯が「あー」と小さくうなずく。
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「そんなとこ管理できないの」
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山城が真顔で答える。
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「できない」
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吉見も即答する。
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「したくない」
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ココアが小さく笑う。
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「しかも」
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全員がココアを見る。
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ココアが続けた。
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「こっちには最強の存在がいる」
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沈黙。
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「……はい?」
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吉見と山城が同時に言った。
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たすくが頭を抱える。
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「やめろココア」
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だが。
その瞬間だった。
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二人は気づく。
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たすくの父も。
母も。
弟も。
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いつの間にかいなかった。
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山城が止まる。
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「……あれ?」
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黒姫が静かに言った。
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「関わらない方がいいって言っといた」
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吉見が顔を引きつらせる。
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「逃がしたのか」
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黒姫が小さく笑う。
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「賢いでしょ」
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その瞬間だった。
山城が震える声で聞く。
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「さ、最強って……なんです?」
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ココアが当たり前みたいに言う。
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「そこにいるでしょ」
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指をさす。
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ゆっくり。
吉見と山城が振り返る。
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そこに。
二人がいた。
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スピネル。
クルミ。
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静かに座っている。
それだけ。
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なのに。
空気そのものが違った。
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美しかった。
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思わず。
見入ってしまうほどに。
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スピネルの漆黒の髪。
触れてはいけないような静けさ。
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クルミの穏やかな視線。
だが。
世界を固定しているみたいな存在感。
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吉見が息を呑む。
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山城も動けない。
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本能だった。
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「あ、これ危ない」
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そう理解してしまう。
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スピネルが静かに言った。
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「怖がらせた?」
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吉見と山城が全力で首を振る。
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「いえ!!」
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「全然!!」
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ココアが吹き出した。
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マロくんが笑う。
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いっちゃんが静かに言う。
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「圧が強い」
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クルミが小さくため息をつく。
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「慣れろ」
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吉見が心の中で思う。
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(慣れる!?)
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その瞬間だった。
未唯が当たり前みたいに言った。
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「私たちのおかあさん」
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空気が止まった。
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吉見と山城が未唯を見る。
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未唯は普通だった。
本当に普通に言った。
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「あと、こっちは隊長」
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クルミが小さく笑う。
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山城が小さくつぶやく。
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「……終わった」
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吉見が真顔で言った。
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「いや」
少し止まる。
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「始まったんだよ」
第二部第4話「最強」を読んでいただきありがとうございました。
今回は、西署側の吉見、山城から見た「こちら側」の異質さが強く描かれる回になりました。
異世界や通路の存在だけでも十分に異常です。
ですが、スピネルとクルミは、その“異常”をさらに超えた存在として描かれています。
特にスピネルは、ただ美しいだけではなく、「触れてはいけない何か」を感じさせる存在でもあります。
また、未唯がそれを当たり前のように「おかあさん」と呼ぶことで、未唯自身がすでにこちら側の世界へ深く根づいていることも示されています。
そして吉見の言葉通り、これは「終わり」ではなく、「始まり」です。
ここから先、現実側と門戸温泉郷はさらに深く関わっていくことになります。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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