第二部 第3話 西署担当者
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
門戸温泉町の存在は、ついに「現実側」の機関にも認識され始めました。
今回登場する吉見と山城は、西署で長年“説明不能案件”を扱ってきた担当者達です。
行方不明者、帰還不能者、そして通路。
彼らは最も現実側に近い立場でありながら、最も境界へ近づいてしまった人間達でもあります。
一方で、未唯達の日常は、相変わらず少し騒がしく、少し普通ではありません。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
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ピンポーン。
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玄関の音が響く。
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リビングの空気が止まった。
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ココアが小さく言う。
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「市役所?」
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マロくんが嫌そうな顔をする。
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「帰れって言う?」
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いっちゃんが静かに言った。
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「それだけじゃ済まないだろ」
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未唯は玲桜の膝の上のまま。
少しだけ不安そうだった。
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たすくがため息をつく。
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「……出るか」
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玄関へ向かう。
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ガチャ。
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立っていたのは二人だった。
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スーツ姿。
だが。
普通の役人ではない。
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たすくが止まる。
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「……西署」
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男が小さく頭を下げた。
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「吉見です」
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隣の男も続く。
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「山城です」
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静かな声だった。
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たすくが聞く。
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「……なんでここに」
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吉見が答える。
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「呼ばれました」
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たすくが嫌な顔をする。
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「誰に」
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その瞬間だった。
後ろから玲桜の声がした。
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「私です」
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吉見と山城が玲桜を見る。
空気が少しだけ変わる。
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山城が小さく言った。
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「本当にいたんだな」
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玲桜は静かだった。
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「ええ」
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吉見が家の中を見る。
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未唯。
ココア。
黒姫。
マロくん。
いっちゃん。
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そして。
普通ではない空気。
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吉見が小さく息を吐く。
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「報告以上だ」
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たすくが聞く。
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「何の報告だよ」
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山城が答える。
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「市内行方不明者」
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空気が静かになる。
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西署。
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最初から。
通路に最も近かった場所。
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消える人。
帰れなくなる人。
突然現れる人。
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説明不能案件。
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だからこそ。
吉見と山城は。
最初から特殊任務へ回されていた。
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「行方不明者取扱担当官」
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表向きは。
ただそれだけ。
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だが実際には。
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「境界流入案件担当」
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山城が静かに言った。
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「通路が開いてるの、西署なんだよ」
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たすくが顔をしかめる。
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「……やっぱりか」
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吉見がうなずく。
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「昔から妙な報告はあった」
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「山へ入って帰れない」
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「知らない町へ出た」
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「同じ時間を繰り返した」
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「知らない子供を保護した」
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未唯が少しだけ止まる。
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山城が未唯を見る。
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「……君みたいにな」
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空気が静かになる。
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玲桜が言った。
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「今回、市役所が動き始めました」
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吉見と山城の顔が変わる。
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「そこまで行ったか」
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ココアが聞く。
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「そんなにヤバい?」
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山城が真顔で答えた。
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「役所はヤバい」
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全員がうなずいた。
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玲桜が静かに続ける。
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「門戸温泉町は、すでに“存在する町”として認識され始めています」
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吉見が小さく言った。
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「世界樹か」
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たすくが止まる。
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「知ってんの?」
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吉見は少しだけ苦笑した。
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「西署なめるな」
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その瞬間だった。
未唯が小さく聞いた。
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「……敵?」
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吉見は少し考えた。
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そして。
静かに答えた。
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「いや」
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少し笑う。
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「どっちかっていうと、巻き込まれ組だ」
第二部第3話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、西署側の吉見と山城が正式に門戸温泉町へ関わり始めました。
彼らは異世界を完全には理解していません。
ですが、「普通では説明できない何か」が存在していることだけは、長年の経験から理解しています。
また、未唯がたすくを「お兄ちゃん」と言い切る場面や、玲桜の膝を当然のように特等席扱いしている場面など、未唯の“帰る場所”としての感情も強く描かれています。
そして最後には、スピネルとクルミも姿を見せました。
美しく、静かで、圧倒的。
現実側の人間から見れば、まさに「最強」としか言いようのない存在達です。
ここから先は、西署、市役所、そして異世界側、それぞれの立場がさらに交差していくことになります。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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