第二部 第2話 市役所が来た
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
門戸温泉町には、少しずつ異世界からの住民達が集まり始めています。
そして今回、ついに「現実側」の正式機関――西署も本格的に関わることになります。
吉見、山城という二人の担当者。
彼らは、長年「行方不明者案件」として、通路や境界の存在に最も近い場所で動いてきた人間達でもあります。
一方で、未唯達の日常は相変わらず少し騒がしく、少し普通ではありません。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
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たすくの家。
リビング。
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空気は完全に日常だった。
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たすくの母が。
普通にお茶を入れている。
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「どうぞ」
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玲桜が小さく頭を下げる。
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「ありがとうございます」
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湯気が上がる。
静かな香り。
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そして。
その瞬間だった。
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未唯が。
当たり前みたいに。
玲桜の膝へ座った。
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たすくが止まる。
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「……何してんの?」
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未唯がムッとした顔になる。
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「ここは!」
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指をびしっとたすくへ向ける。
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「わ、た、しの特等席なの!」
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ココアが吹き出した。
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黒姫が口元を押さえる。
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マロくんが言った。
「強い」
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いっちゃんが静かに言う。
「いつもの」
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玲桜が少し困った顔をする。
でも。
何も言わない。
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たすくが小さく言った。
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「スルーかよ……」
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その瞬間だった。
ココアが手を上げた。
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「でね!」
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全員がココアを見る。
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「今日ここに来たのはね!」
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たすくが心の中で思う。
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(切り替え早……)
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ココアが続けた。
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「門戸温泉町できたでしょ?」
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たすくがうなずく。
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「まあ」
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「住民増えたでしょ?」
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「いろんなのがな」
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ココアがジト目になる。
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「茶化さない」
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たすくが小さく肩をすくめる。
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「だって明らかに人間じゃないのいるだろ」
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角。
羽。
耳。
尻尾。
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温泉町はもう。
普通の町ではない。
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ココアが真面目な顔になる。
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「真面目な話なんです」
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空気が少し変わる。
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玲桜が静かに続けた。
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「今までも」
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「こちらから呼ばれた者」
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「帰還してきた者」
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「通路へ迷い込んだ者」
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「様々な存在がいました」
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たすくがうなずく。
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「……うん」
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玲桜の目が少し細くなる。
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「ですが」
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静かに。
本当に静かに言った。
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「ついに」
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一瞬間が空く。
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「来てしまったんです」
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たすくが嫌な顔をする。
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「何が」
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玲桜が言った。
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「市役所が」
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沈黙。
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たすくが止まる。
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「……は?」
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ココアが真顔でうなずく。
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「来た」
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黒姫が小さく言う。
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「正式に」
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マロくんが嫌そうな顔をする。
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「一番強い敵」
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いっちゃんがうなずく。
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「わかる」
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たすくが頭を抱える。
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「いや待て」
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玲桜が静かに言った。
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「門戸温泉町は」
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「人口増加」
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「異種族定住」
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「通路利用」
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「不明文化流入」
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「温泉利用権」
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「境界安全管理」
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「居住登録」
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「その他多数」
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「全て未申請です」
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たすくが言った。
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「終わったな」
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未唯が玲桜の膝の上で首を傾げる。
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「市役所って強いの?」
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全員が真顔になった。
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玲桜が静かに答えた。
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「非常に」
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その瞬間だった。
玄関のチャイムが鳴った。
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ピンポーン。
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全員が止まる。
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たすくが震える声で言う。
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「……まさか」
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玲桜が静かに言った。
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「来ましたね」
第二部第3話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、西署側の人間である吉見と山城が、本格的に門戸温泉町や通路問題へ関わり始めました。
彼らは「異世界」や「通路」を完全には理解していません。
ですが、長年“説明不能案件”を扱ってきたことで、普通ではない何かが存在していることだけは理解しています。
また、未唯が玲桜の膝を「特等席」と言い切る場面など、少しずつ家族や居場所としての空気も強くなってきています。
そして最後には、スピネルとクルミも登場しました。
美しく、静かで、圧倒的。
門戸温泉郷には、まだ「現実側」が理解できていない存在達が数多くいます。
ここから先は、現実と異世界の境界がさらに曖昧になっていくことになります。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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