第二部 第1話 家族
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
世界樹が芽吹き、境界と通路が安定したことで、花園の外にも少しずつ変化が現れ始めました。
第2部では、「門戸温泉郷」と呼ばれるようになった温泉地と、そこへ集まり始めた人々や異世界の住民達の物語が描かれていきます。
そして未唯達も、「戦う」だけではなく、「暮らす」側へ少しずつ変わり始めています。
今回は、そんな日常の中へ「現実側」が本格的に関わり始める回になります。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
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外の世界。
たすくの家。
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普通の家だった。
リビングがあって。
台所があって。
テレビがついている。
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父が新聞を読んでいる。
母が夕飯を作っている。
幼い弟が騒いでいる。
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そんな。
どこにでもある家。
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未唯はそこにいた。
自然に。
当たり前みたいに。
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たすくが未唯を見る。
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未唯には耳も尻尾もない。
見た目だけなら普通の少女だった。
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だが。
もう普通ではないことを。
たすくは知っている。
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花園。
通路。
世界樹。
門戸温泉町。
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そして。
小料理屋『未唯』。
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ナオリも透真も。
もう向こう側で暮らしている。
住む場所もある。
帰る場所もある。
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なのに。
未唯はここにいる。
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たすくが小さく聞いた。
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「……いいのか?」
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未唯が止まる。
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たすくが続けた。
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「ここにいて」
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静かな声だった。
責めているわけじゃない。
確認だった。
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「母さん達もいるんだろ」
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未唯は止まったままだった。
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たすくが言う。
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「町にも家あるし」
少し困った顔をする。
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「……こっち、普通の家だぞ」
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その瞬間だった。
未唯が振り向いた。
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「何言ってるの!?」
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たすくが止まる。
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未唯が怒っていた。
完全に。
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「あなたも!」
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未唯が指をさす。
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「私のお兄ちゃんなのよ!」
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たすくが固まる。
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未唯は止まらない。
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「今更未唯はいませんなんて!」
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顔を真っ赤にして言う。
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「制度が許しても!」
息を吸う。
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「私の感情が許せないのよ!!」
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リビングが静かになる。
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たすくの母が小さく笑いをこらえている。
父は新聞で顔を隠した。
弟はよく分かっていない。
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たすくだけが止まっていた。
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未唯がさらに言う。
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「そんなこともわからないの!?」
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完全に怒っていた。
たぶん。
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たすくが小さく言う。
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「……怒ってる?」
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未唯が言った。
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「怒ってる!」
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その瞬間だった。
後ろでココアが吹き出した。
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「ぷっ」
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黒姫も口元を押さえる。
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マロくんが笑う。
「家族認定された」
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いっちゃんが静かに言う。
「前からだろ」
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たすくが頭を抱える。
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「いや待て」
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未唯が言った。
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「待たない!」
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その瞬間だった。
玄関が開いた。
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玲桜だった。
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静かに家へ入ってくる。
いつも通り。
自然に。
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未唯が止まる。
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玲桜が言った。
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「騒がしいですね」
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ココアが笑う。
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「家族会議」
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玲桜が未唯を見る。
少しだけ。
やわらかく。
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「なるほど」
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未唯が少し赤くなる。
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たすくが小さく言った。
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「……増えた」
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その瞬間だった。
たすくの弟が玲桜を見る。
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「おにいちゃん、だれ?」
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玲桜が少し止まる。
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未唯が即答した。
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「家族」
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玲桜が珍しく固まった。
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ココア達が吹き出す。
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たすくが天井を見る。
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「……もうだめだこの家」
第二部第2話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、未唯とたすくの「家族」としての関係がかなり強く描かれる回になりました。
制度や戸籍ではなく、「感情が許さない」という未唯の言葉は、未唯自身が“帰る場所”を強く認識していることでもあります。
また、西署の吉見、山城も正式に関わり始め、門戸温泉町の存在は「現実側」でも無視できないものになりつつあります。
さらに最後には、スピネルとクルミも姿を見せました。
美しく、静かで、そして圧倒的な存在。
これから先、「こちら側」がどれほど普通ではないのかも少しずつ描かれていきます。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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