無言聖域 第二部 門戸温泉郷編 第1話 小料理屋 未唯
ここまで読んでいただきありがとうございます。
第二部 第1話では、世界樹が根づき、通路が安定したことで生まれた「門戸温泉郷」が描かれます。
最初は温泉しかなかった場所。
ですが、様々な世界から人々が流れ着き、少しずつ町が形になっていきます。
そして、その町の中には――
小料理屋『未唯』があります。
戦いのあとに訪れた、「帰る場所」の物語になります。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
https://applebrother.wordpress.com/
花園の外れ。
そこには昔から温泉があった。
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湯気だけが揺れる場所。
静かな場所。
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最初は。
誰もいなかった。
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時々。
デグー一家が温泉に入りに来る。
それだけの場所だった。
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月がのんびり浸かり。
ココア達が騒ぎ。
クルミがため息をつく。
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そんな。
それだけの場所。
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だが。
世界樹が根づいた。
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通路が安定した。
境界が固定された。
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すると。
少しずつ変わり始めた。
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通路が開く。
知らない景色。
知らない空。
知らない種族。
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ぽつり。
ぽつりと。
誰かが現れるようになった。
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「ここは……?」
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「帰れない」
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「通路が閉じた」
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様々な世界の者達だった。
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獣人。
エルフ。
角を持つ者。
羽を持つ者。
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みんな。
迷った顔をしていた。
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だが。
花園へ来た者達は。
少しずつ変わる。
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温泉へ入る。
食事をする。
笑う。
眠る。
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そして。
帰らない者も増えた。
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いつの間にか。
誰かが呼び始めた。
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「門戸温泉郷」
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境界へつながる門。
多くの世界へ通じる門。
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その名が。
自然に定着していった。
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さらに時が流れる。
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温泉の近くに。
小さな町ができた。
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門戸温泉町。
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小さい。
でも。
にぎやかな町だった。
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異世界の言葉が飛び交う。
湯気が流れる。
子供達が走る。
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通路が開く。
誰かが来る。
誰かが笑う。
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そして。
町の一角。
小さな店があった。
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のれんが揺れている。
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そこには。
静かな字で書かれていた。
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『未唯』
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小料理屋 未唯。
それが店の名前だった。
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店の中。
湯気が漂う。
やさしい匂い。
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ナオリが料理を運ぶ。
透真が鍋を見ている。
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未唯が言った。
「お兄ちゃん、焦げる」
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透真が言った。
「焦げてない」
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ナオリが笑う。
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カウンターでは。
ココア達が騒いでいた。
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「追加!」
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「食いすぎ」
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「温泉入ったから!」
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マロくんが言う。
「関係ある?」
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いっちゃんがため息をつく。
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その奥。
窓際。
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玲桜が静かに座っていた。
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未唯が料理を持っていく。
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「はい」
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玲桜が小さくうなずく。
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「ありがとうございます」
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未唯が少し笑う。
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花園の外。
温泉郷の灯りが揺れている。
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通路は今も開く。
新しい誰かが来る。
泣いている者もいる。
帰れない者もいる。
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でも。
この町には温泉がある。
花がある。
笑う声がある。
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そして。
帰る場所がある。
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店の前。
世界樹の小さな芽が。
夜の中で静かに光っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回は、世界樹が根づいた後の世界が描かれました。
通路が安定したことで、異なる世界から様々な種族が門戸温泉郷へ辿り着くようになります。
最初はただの温泉地だった場所が、少しずつ「帰る場所」を持つ町へ変わっていきました。
そして、未唯、ナオリ、透真達が営む小料理屋『未唯』も、その象徴のひとつになっています。
戦いだけではなく、「誰かが安心して帰れる場所」を作ること。
それこそが、未唯達が世界樹を根づかせた意味でもあります。
また、玲桜が自然にその場所へいることも、未唯にとっては大きな変化になっています。
ここから先は、門戸温泉郷を訪れる様々な存在や、新しく開く通路についても描かれていきます。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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