第29話 芽吹き
ここまで読んでいただきありがとうございます。
第29話では、未唯へ託された世界樹の種が、ついに芽吹き始めます。
小さな芽ではありますが、それは花園や通路、そして世界そのものへ大きな変化を与え始めています。
また、未唯自身も少しずつ世界樹とつながり始め、「世界を見る」側へ近づいていきます。
静かな回ですが、物語の根幹へ関わる重要な変化が起きる回になります。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
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花園は静かだった。
戦いの気配は遠い。
通路も安定している。
まるで。
世界そのものが呼吸しているみたいだった。
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未唯は小さな芽を見ていた。
花園の中心。
そこに。
世界樹の芽があった。
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小さい。
まだ幼い。
でも。
静かな力があった。
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未唯が小さく言った。
「……ほんとに生えてる」
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ココアがしゃがみ込む。
「かわいい」
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黒姫が静かにうなずく。
「わかる」
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マロくんが言った。
「木だよな?」
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いっちゃんが答える。
「たぶん」
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ポップがぽふっと笑う。
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「せかいじゅ」
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未唯が芽を見る。
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「これが」
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玲桜が静かに言った。
「はい」
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花が揺れる。
やさしく。
祝福するみたいに。
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その瞬間だった。
芽が小さく光った。
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空気が変わる。
距離が揺れる。
通路が静かに脈打つ。
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ライくんが止まる。
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「……広がった」
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小雪も芽を見る。
赤い瞳が静かに揺れる。
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玲桜が目を閉じる。
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「境界が安定しています」
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クルミが小さく笑う。
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「根づき始めたな」
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未唯が聞く。
「どうなるの?」
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クルミは芽を見る。
静かに。
やさしく。
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「この世界が」
少し間を置く。
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「消えなくなる」
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空気が静かになる。
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未唯が止まる。
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今まで。
境界は不安定だった。
通路も。
花園も。
いつ消えてもおかしくなかった。
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でも。
芽が出た。
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つまり。
ここに。
命が根づき始めた。
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ナオリが小さく言った。
「……存在が固定される」
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透真が苦笑する。
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「ほんとにとんでもないな」
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その瞬間だった。
芽がまた光った。
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未唯が止まる。
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芽が。
未唯へ向いた。
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葉が揺れる。
小さく。
まるで。
手を伸ばすみたいに。
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未唯がそっと触れた。
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あたたかかった。
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その瞬間だった。
花園全体が光った。
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通路が揺れる。
境界が広がる。
世界が脈打つ。
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玲桜の目が変わる。
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「……接続しています」
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未唯が聞く。
「なにと?」
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玲桜は静かに答えた。
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「世界そのものです」
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空気が止まる。
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その瞬間だった。
未唯の中へ。
景色が流れ込んだ。
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花園。
通路。
春の園。
遠い世界。
まだ見たことのない場所。
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そして。
巨大な世界樹。
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未唯が息を呑む。
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「……きれい」
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ポップが嬉しそうに笑った。
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「みえた?」
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未唯がうなずく。
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「うん」
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その瞬間だった。
芽がもう一枚。
葉を開いた。
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玲桜が静かに言った。
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「成長しています」
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黒姫が小さく笑う。
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「早い」
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ココアが言った。
「未唯に懐いてる」
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マロくんが笑う。
「犬みたい」
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いっちゃんが小さく言う。
「世界樹だからな?」
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花園の花が揺れる。
やさしく。
静かに。
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その奥で。
まだ誰も知らない通路が。
小さく光った。
第一部 世界樹編 完
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
未唯が世界樹の種を受け取り、芽吹きが始まったことで、この世界は「命の宿る世界」として少しずつ形を持ち始めました。
ここで第一部完となります。
第二部では、世界樹が根づいた後の「門戸温泉郷」と、そこへ集う人々、異世界の住民達の物語が描かれていきます。
引き続き、見守っていただければ嬉しいです。
第一部完
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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