第二部 第8話 出張所
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
世界樹が根づき、門戸温泉町は少しずつ「存在する町」として形を持ち始めています。
そして今回、ついに「現実側」の管理機関――市役所まで関わり始めることになりました。
異世界住民。
通路利用者。
居住登録。
普通では考えられない問題ばかりですが、それでも「町」である以上、管理は必要になります。
一方で、こちら側の空気は相変わらず少しずれていて、少し穏やかです。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
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リビングの空気は少し緩んでいた。
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だが。
山城はまだ終わっていなかった。
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「まぁ」
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疲れた声だった。
本当に。
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「とにかく」
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吉見が横で深くため息をつく。
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山城が資料をめくる。
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「それで」
少し間。
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「市役所なんですが」
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全員が嫌そうな顔をした。
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ココアが小さく言う。
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「きた」
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マロくんが言う。
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「ラスボス」
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いっちゃんが静かにうなずく。
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「強敵」
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山城が続けた。
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「管理をお願いしました」
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たすくが止まる。
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「……お願い?」
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吉見がボソッと言った。
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「つまり丸投げだ」
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山城が即座に言う。
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「吉見」
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吉見が疲れた顔のまま言う。
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「だってそうだろ」
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「連日の会議で疲れてたんだよ……」
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山城が小さくため息をつく。
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「声に出てるぞ」
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ココアが吹き出した。
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黒姫も小さく笑う。
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山城が続ける。
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「あっち側でも色々あったようでして」
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吉見が遠い目をする。
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「“異世界住民への住民税はどうなる”とか」
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たすくが頭を抱える。
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「やめろ」
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ココアが笑い始める。
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「住民税!!」
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山城が真顔で続けた。
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「そのうち担当者が伺うかと思いますが」
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空気が少し静かになる。
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玲桜が小さく目を細めた。
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山城が資料を見る。
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「門戸温泉町の住民登録をするため」
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「西署からの通路を出てすぐ」
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「聖域側に」
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少し間。
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「出張所を設けて欲しい、と」
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沈黙。
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ココアが止まる。
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マロくんも止まる。
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いっちゃんが静かに聞いた。
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「……役所作るの?」
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吉見が真顔で答える。
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「らしい」
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未唯が首を傾げる。
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「しゅっちょうじょ?」
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たすくが説明する。
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「役所の小さいやつ」
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未唯がさらに首を傾げる。
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「役所って増えるの?」
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全員少し黙った。
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山城が静かに言う。
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「増えるんだよ……」
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吉見が小さくつぶやく。
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「人類の拡張と共にな……」
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ココアが笑い転げる。
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「なにその絶望感!」
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玲桜だけは静かだった。
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そして。
小さく言った。
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「合理的ですね」
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全員が玲桜を見る。
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玲桜は普通だった。
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「居住者管理」
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「通路利用記録」
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「安全確認」
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「外界との調整」
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「必要です」
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吉見が止まる。
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山城も少し驚いた顔になる。
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たすくが小さく言った。
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「受け入れるんだ」
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玲桜は静かにうなずいた。
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「世界樹が根づいた以上」
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「ここは、もう“存在する町”です」
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空気が静かになる。
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門戸温泉町。
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もう。
隠れ場所ではない。
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人が暮らし。
通路が開き。
住民が増え。
町になる。
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つまり。
管理も必要になる。
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クルミが静かにお茶を置いた。
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「ならば」
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全員がクルミを見る。
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クルミが小さく笑った。
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「温泉の隣に作るか」
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ココアが吹き出した。
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「役所と温泉!?」
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マロくんが笑う。
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「嫌すぎる」
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その瞬間だった。
スピネルが静かに言った。
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「でも」
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全員がスピネルを見る。
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スピネルは少しだけ微笑んだ。
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「迷って来た子が、最初に見る場所としては悪くないわ」
第二部第8話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、門戸温泉町が「隠された場所」ではなく、「存在する町」として扱われ始める回になりました。
西署、市役所、住民登録。
今までの異世界や通路の話に、「行政」という現実的な問題が入り始めています。
ですが、異世界住民に対して戸籍や税金をどうするのかなど、現実側も完全に手探り状態です。
また、吉見と山城がかなり疲弊しているのも、普通の人間としては当然なのかもしれません。
一方で、玲桜は門戸温泉町が管理されることを自然に受け入れています。
それは、世界樹が根づいた以上、ここが「存在する世界」になったことを理解しているからです。
そして最後にスピネルが言った、
「迷って来た子が、最初に見る場所としては悪くないわ」
という言葉。
それこそが、門戸温泉郷という場所の本質なのかもしれません。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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