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無言聖域ーーデグーたちの記録  作者: おじさんヒーロー
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第二部 第8話 出張所

無言聖域

第二部 門戸温泉郷編


ここまで読んでいただきありがとうございます。


世界樹が根づき、門戸温泉町は少しずつ「存在する町」として形を持ち始めています。


そして今回、ついに「現実側」の管理機関――市役所まで関わり始めることになりました。


異世界住民。


通路利用者。


居住登録。


普通では考えられない問題ばかりですが、それでも「町」である以上、管理は必要になります。


一方で、こちら側の空気は相変わらず少しずれていて、少し穏やかです。


作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。


https://applebrother.wordpress.com/

リビングの空気は少し緩んでいた。


⸻


だが。


山城はまだ終わっていなかった。


⸻


「まぁ」


⸻


疲れた声だった。


本当に。


⸻


「とにかく」


⸻


吉見が横で深くため息をつく。


⸻


山城が資料をめくる。


⸻


「それで」


少し間。


⸻


「市役所なんですが」


⸻


全員が嫌そうな顔をした。


⸻


ココアが小さく言う。


⸻


「きた」


⸻


マロくんが言う。


⸻


「ラスボス」


⸻


いっちゃんが静かにうなずく。


⸻


「強敵」


⸻


山城が続けた。


⸻


「管理をお願いしました」


⸻


たすくが止まる。


⸻


「……お願い?」


⸻


吉見がボソッと言った。


⸻


「つまり丸投げだ」


⸻


山城が即座に言う。


⸻


「吉見」


⸻


吉見が疲れた顔のまま言う。


⸻


「だってそうだろ」


⸻


「連日の会議で疲れてたんだよ……」


⸻


山城が小さくため息をつく。


⸻


「声に出てるぞ」


⸻


ココアが吹き出した。


⸻


黒姫も小さく笑う。


⸻


山城が続ける。


⸻


「あっち側でも色々あったようでして」


⸻


吉見が遠い目をする。


⸻


「“異世界住民への住民税はどうなる”とか」


⸻


たすくが頭を抱える。


⸻


「やめろ」


⸻


ココアが笑い始める。


⸻


「住民税!!」


⸻


山城が真顔で続けた。


⸻


「そのうち担当者が伺うかと思いますが」


⸻


空気が少し静かになる。


⸻


玲桜が小さく目を細めた。


⸻


山城が資料を見る。


⸻


「門戸温泉町の住民登録をするため」


⸻


「西署からの通路を出てすぐ」


⸻


「聖域側に」


⸻


少し間。


⸻


「出張所を設けて欲しい、と」


⸻


沈黙。


⸻


ココアが止まる。


⸻


マロくんも止まる。


⸻


いっちゃんが静かに聞いた。


⸻


「……役所作るの?」


⸻


吉見が真顔で答える。


⸻


「らしい」


⸻


未唯が首を傾げる。


⸻


「しゅっちょうじょ?」


⸻


たすくが説明する。


⸻


「役所の小さいやつ」


⸻


未唯がさらに首を傾げる。


⸻


「役所って増えるの?」


⸻


全員少し黙った。


⸻


山城が静かに言う。


⸻


「増えるんだよ……」


⸻


吉見が小さくつぶやく。


⸻


「人類の拡張と共にな……」


⸻


ココアが笑い転げる。


⸻


「なにその絶望感!」


⸻


玲桜だけは静かだった。


⸻


そして。


小さく言った。


⸻


「合理的ですね」


⸻


全員が玲桜を見る。


⸻


玲桜は普通だった。


⸻


「居住者管理」


⸻


「通路利用記録」


⸻


「安全確認」


⸻


「外界との調整」


⸻


「必要です」


⸻


吉見が止まる。


⸻


山城も少し驚いた顔になる。


⸻


たすくが小さく言った。


⸻


「受け入れるんだ」


⸻


玲桜は静かにうなずいた。


⸻


「世界樹が根づいた以上」


⸻


「ここは、もう“存在する町”です」


⸻


空気が静かになる。


⸻


門戸温泉町。


⸻


もう。


隠れ場所ではない。


⸻


人が暮らし。


通路が開き。


住民が増え。


町になる。


⸻


つまり。


管理も必要になる。


⸻


クルミが静かにお茶を置いた。


⸻


「ならば」


⸻


全員がクルミを見る。


⸻


クルミが小さく笑った。


⸻


「温泉の隣に作るか」


⸻


ココアが吹き出した。


⸻


「役所と温泉!?」


⸻


マロくんが笑う。


⸻


「嫌すぎる」


⸻


その瞬間だった。


スピネルが静かに言った。


⸻


「でも」


⸻


全員がスピネルを見る。


⸻


スピネルは少しだけ微笑んだ。


⸻


「迷って来た子が、最初に見る場所としては悪くないわ」

第二部第8話を読んでいただきありがとうございました。


今回は、門戸温泉町が「隠された場所」ではなく、「存在する町」として扱われ始める回になりました。


西署、市役所、住民登録。


今までの異世界や通路の話に、「行政」という現実的な問題が入り始めています。


ですが、異世界住民に対して戸籍や税金をどうするのかなど、現実側も完全に手探り状態です。


また、吉見と山城がかなり疲弊しているのも、普通の人間としては当然なのかもしれません。


一方で、玲桜は門戸温泉町が管理されることを自然に受け入れています。


それは、世界樹が根づいた以上、ここが「存在する世界」になったことを理解しているからです。


そして最後にスピネルが言った、


「迷って来た子が、最初に見る場所としては悪くないわ」


という言葉。


それこそが、門戸温泉郷という場所の本質なのかもしれません。


ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。


https://applebrother.wordpress.com/

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