黒い娘
門戸温泉郷には、いくつか系譜があります。
その中でも「黒」と呼ばれるものがあります。
黒の系譜がある。
兄弟姉妹の中で、
黒の子どもたち。
コスピ
黒姫
ソラ
ジェット
ナイト
クロミ
そして、
スピネル。
黒の約束がある。
黒い娘を。
呼ばれた。
クルミが振り返る。
みすずがいた。
「呼んだの?」
みすずは首を振る。
「クロミ」
また呼ばれた。
誰。
誰なの。
約束。
黒い娘を。
クロミは母になろうとしていた。
憧れていた。
完璧な母。
美しい母。
優しい母。
強く、
気高い母。
三時のお茶の準備をしていた黒姫のそばで、
クロミは言った。
「わたくしも手伝います」
カップを取ろうとして、
手が滑った。
カチャン、と音がした。
落ちたのは、
月のカップだった。
「ケガしてない?」
黒姫が言った。
「わたくしが片付けます」
「いいのよ。危ないから」
黒姫はそう言って、
割れたカップを片付けた。
「お父様には、
私のカップを使っていただくから」
クロミは、
何も言えなかった。
手伝うと言っておきながら、
余計な手間をかけただけだった。
いたたまれなかった。
泣いていた。
母の膝の上で。
スピネルが言った。
「あなたはあなたなのよ」
「誰にもあなたの代わりにはなれない」
「だからこのままでいてくれれば、
それでいいの」
あとで月が気づいた。
カップが違うことに。
「あの……」
クロミが言いかけた。
黒姫が先に言った。
「私のプレゼントです」
「これからはこちらを使ってください」
月はカップを見て、
言った。
「気に入った」
それだけだった。
黒姫が、
クロミにウインクした。
クロミはそれから、
黒姫が大好きになった。
※門戸温泉郷記録補足
黒の系譜については公開可能範囲が限られています。
本記録に含まれていない内容があります。




