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帰れなくなる花園
門戸温泉郷にはいくつか名前の付いた場所があります。
春の庭もその一つです。
平原にはいつも花が咲いている。
風は優しく吹いている。
空はいつも晴れている。
入口には立て看板がある。
花を摘まないで。
帰れなくなるよ。
怖い文字で書かれている。
ここは「春の庭」と呼ばれている。
家族がよくピクニックをしている場所だった。
怖い場所ではない。
けれど、
ここの花はただの花ではない。
摘んでもいい花は決まっている。
花は摘むものを選ぶ。
摘んだものは選ばれている。
選ばれたものは、
外へは出ない。
元の世界に戻りたければ、
花を摘まないことだ。
ここの花は特殊だから。
持ち出せない。
ある日、
花を摘んでしまった女の子がいた。
泣いていた。
その前に、
ライがいた。
「帰りたいのかい?」
女の子はうなずいた。
「もう、花を摘んではいけないよ」
ほんの少し、
時間が巻き戻る。
この庭に入る前に。
母親が呼ぶ声が聞こえた。
女の子は庭に入らず、
走っていった。
春の庭は、
呼ばれた者だけが通る場所だ。
摘んでもいいのは、
選ばれた者だけ。
そして、
選ばれた者は――
戻らない。
※門戸温泉郷観光案内補足
春の庭では花を持ち帰らないこと。
持ち帰った場合、
通路が閉じる可能性があります。




